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この歩みの先に 被団協にノーベル平和賞・下 「岐路」 継承の「終活」まだできる

2024/10/16 掲載

「岐路」 継承の「終活」まだできる

 11日、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)へのノーベル平和賞授賞の発表直後。「山口仙二さんや谷口稜曄(すみてる)さんに聞いてほしかった…」。そう声を震わせたのは被団協の中核組織、長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の事務局長で被爆2世の柿田富美枝(71)。亡き2人の被爆証言を継ぎ、次世代に伝える語り部活動を担っている。

 谷口は「表に出たくない性格」(長男英夫)だったが、被団協トップとして山口ら亡き後をけん引。海外に25回渡航し、大やけどを負った背中の写真を掲げ核廃絶を訴えた。2017年7月の核兵器禁止条約採択を見届けた翌月、88歳で死去。長崎や全国の被爆者運動の礎を築き、育て、率いた人の多くが鬼籍に入った。

 被爆者同士でつないできた運動継承の“バトン”には、限界が近づいている。平均年齢は85歳超。被団協を構成する被爆者団体は、かつて47都道府県にあったが、既に11県で解散や休止となり、来年3月に北海道の団体も解散する。

 近づきつつある「被爆者なき時代」。長崎被災協は被爆79年目の今年、被爆証言や平和への思いを、世界や次世代に伝えるプロジェクトを発足。ユーチューブでの証言映像配信や、被爆者の紙芝居制作などを進め、今まで被災協とつながりが薄かった人たちも少しずつ協力し始めた。

 プロジェクトを進める中心人物の1人が副会長の横山照子(83)。被団協の活動にも半世紀ほど携わり、「被爆者の歩みを後世に伝えたい」との思いは人一倍強い。それでも“弱気”になっていた部分はあった。「もう私たちは年なんだ、やれても被爆80年まで、と線を引いていた」。それが今回のノーベル平和賞受賞で覆された。

 横山は受賞が決まり、継承に向け「もうひと頑張りしよう」と腹をくくったという。「ただ継承といっても、受ける側は被爆者ではないわけで、何でも被爆者と同じようにはできない。みんな模索している。だから被爆者運動の『終活』として、本当に何を託したいのか、本当に何を遺言とするのかを整理して、みんなを引っ張っていきたい」

 今、世界では核大国ロシアのウクライナ侵攻や、事実上の核保有国イスラエルとイランの対立など核情勢は深刻化。一方で長崎と広島を中心に、被爆2世や高校生、大学生ら次世代による証言活動や、平和教育も続いている。「絶望」の芽も、「希望」の芽もある。
 かつて自身も平和賞候補に挙がった山口仙二は、被爆者が受賞すれば「流れが変わる」と語ったという。ようやく実現した被団協の受賞。これが核なき世界への岐路となるのか-。まだ通過点に過ぎない。
=文中敬称略=