2030年までに日本の核兵器禁止条約参加を目指す-。被爆者団体や市民団体でつくる「核兵器廃絶日本NGO連絡会」は5月、来年春にキャンペーン「核なき世界を日本から」を始めると表明した。
17年に国連で採択され、21年に発効した同条約。保有や使用、威嚇など全面的に禁じる。今年1月時点で92カ国・地域が署名、68カ国・地域が批准。核保有国は反対し、米国の「核の傘」の下にある日本も署名・批准していない。
国内約30の団体でつくる同連絡会は10年から早期発効や条約参加などを政府に働きかけてきた。だが締約国会議へのオブザーバー参加すら実現していない。
共同代表の一人で、非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲さん(54)は狙いを次のように語る。5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で核問題への社会的な関心の高まりを感じる一方、「まだ政府を動かすような政治的な動きになっていない。運動を強力に推進する必要がある」。
同連絡会を母体に推進体制の構築を計画。情報発信や国会議員への働きかけを強化し、政治的な選択肢を提示することで政府を動かすことを思い描く。幅広い層の市民、特に若い世代の参加に期待を寄せる。
準備事務局を担うのは20代の大学生ら3人。高橋悠太さん(22)=広島県出身=は「一人一人が核の危険にさらされる当事者。ジェンダー差別や環境汚染などを含む社会の問題だと可視化できれば」と意気込む。
川崎さんらは7月下旬、発足準備のため、長崎市を訪問。被爆者団体の代表らと今後の進め方などについて意見を交わした。
「核抑止論の克服には対話と信頼醸成しかない」。同連絡会の共同代表の一人で県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(80)は核大国に目を向ける。「核時代の扉を開いた米国は『核なき世界』を目指す上で指導性を発揮する責任がある」と考えるが、核兵器がもたらす悲惨な結末が国民の中で「まだよく理解されていない」と感じるからだ。
同会は11月に会員の被爆者や被爆2、3世らでつくる訪問団を米国に派遣し、被爆証言や米市民との対話を計画。数年間の継続的な取り組みを予定しており、朝長会長は「市民の大半が核抑止論にのっとった核政策は『もう終わりにしよう』となれば、変わる」と強調する。
全国の被爆者の平均年齢は85歳を超えた。「直接伝える最後のチャンス。核被害の実相を知る被爆地長崎の市民が世界に伝えなければ」。朝長会長は使命感を胸に渡米の準備を進める。
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核抑止に向き合う 長崎から問う被爆国の針路・7完 【市民社会】 「被爆の実相、伝えねば」
2023/08/06 掲載