来春、古里愛媛で教員になる片山さん。子どもたちに自身の経験を伝えたいと思っている=長崎市内

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被爆・戦後75年 ナガサキ・ユースの視点 若者と平和活動・3 【意識】考える契機つくりたい 片山桂維さん(23)=5期生=

2020/07/20 掲載

来春、古里愛媛で教員になる片山さん。子どもたちに自身の経験を伝えたいと思っている=長崎市内

【意識】考える契機つくりたい 片山桂維さん(23)=5期生=

 2017年5月、オーストリア・ウィーンであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会。「NPTが発効してかなりたつのに、核を巡る状況は全く変わっていないんだな」。ナガサキ・ユース代表団5期生として派遣され、会議を傍聴した片山桂維(23)=長崎大大学院2年=はため息をついた。岸田文雄外相(当時)の演説にも失望した。
 この年、歴史上初めて核兵器の非合法性を明文化した核兵器禁止条約の制定交渉が開始されたが、そこに被爆国日本の姿はなかった。準備委での演説で、核禁条約は核保有国と非保有国のさらなる亀裂を生むとして、段階的に核を減らす「現実的」なアプローチに理解を求めた岸田。片山には終始、お茶を濁すような態度に思えてならなかった。
 国連はこの2カ月後、核禁条約を採択。これまでに40カ国・地域が批准し、発効に必要な50カ国・地域に迫りつつある。しかし、米ロなどの核保有国に加え、同盟国から核抑止力の提供を受けている日本などの“核の傘”国は核禁条約に反対の姿勢を崩さず、推進国との間には大きく、深い溝が横たわる。
 長崎大1年時から被爆体験の継承に取り組む「青少年ピースボランティア」として活動し、被爆者の「核なき世界」への思いを聞いていた片山。一方で、準備委の傍聴や核保有国の政府高官との面会で核抑止力への考え方に触れるにつれ、「現実的には、核廃絶は難しいのでは」と感じるようになったのも事実だ。
 国内の若者の意識も核問題の停滞を生み出す要因だとみる。「若者の投票率が低いのと一緒。自分が一票を入れても何も変わらないという気持ち」。自身の平和活動について、周囲から「何それ」「難しそう」と冷ややかな反応が返ってくることも少なくない。
 来春、古里の愛媛に戻り、小学校の教員になる。片山によると、四国の学校では同和問題が取り上げられることが多く、平和関連の授業は長崎ほど普及していない。自身の代表団時代の経験なども伝え、児童らには核問題について考えてもらいたいと思っている。
 「核廃絶しなきゃいけない、と考えを押しつけるような教育はしたくない。でも現実を知った自分には、子どもたちに考えるきっかけづくりができると思う」。そんな小さな積み重ねが、核問題への停滞や諦めムードが広がる被爆国の意識を変えていくと信じる。
(文中敬称略)


 県や長崎市、長崎大でつくる核兵器廃絶長崎連絡協議会が県内の学生らを対象に募集し、国連本部で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議へ派遣するなどしている「ナガサキ・ユース代表団」。本年度が8期生になる。現役生や経験者への取材、長崎新聞社が実施したアンケート結果を通して、平和活動への若者の思い、課題を考える。

◎アンケート結果
 -ナガサキ・ユース代表団の現役時代、核兵器廃絶は可能と思っていたか。
 ▽はい 62%
 「オバマ氏の広島訪問や核兵器禁止条約の採択で、反核機運が高まったと感じた」(4期・25歳男性)
 ▽いいえ 30%
 「国際会議での核保有国のかたくなな態度を見て、完全な核廃絶は不可能と思った」(7期・21歳女性)

 -現在は可能と思っているか。
 ▽はい 60%
 「思っていなければ、最初から諦めていることになる」(4期・24歳女性)
 ▽いいえ 32%
 「留学で米国人の核兵器への意識を知り難しいと思った」(7期・21歳女性)