【衝撃】 同級生が白血病死
5月末、長崎市内。核兵器廃絶の署名を国連機関へ届ける高校生平和大使の選考会に続き、高校生1万人署名活動実行委員会の集会が開かれた。新型コロナウイルスの影響で休止していた署名集めを7月5日に再開することを確認した。
「困難を乗り越え、歴史をつないでほしい。とにかく粘り強くいこう」。平野伸人(のぶと)(73)=長崎市愛宕3丁目=が約40人の高校生にハッパを掛けた。平和大使は本年度の新メンバーで23代目。署名を集める実行委も発足から20年目に入った。被爆地長崎から生まれた若者らの活動を創生期から支える“生みの親”だ。被爆2世で元小学校教諭。在韓被爆者支援や数々の平和運動を仕掛けてきた。原点は高校時代にさかのぼる。
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1963年の出来事だった。県立長崎南高2年の時、同級生が学校でバスケットボール中に目まいと頭痛を訴えた。診断は急性白血病。彼もまた被爆2世だった。「当時、根本治療はなく、輸血で延命するしかなかった」。生徒会長の平野は校内で献血を呼び掛けて回った。
病院に見舞った同級生の姿に衝撃を受けた。「手足は痩せ細り、おなかは膨れ、言葉も発せなくなっていた」。手を握ると、彼の目は「生きたい」と訴えているようだった。命のともしびが消えたのはその数日後だった。
放射線被害の遺伝的な影響は今も科学的に解明されていないが、当時、新聞は2世の白血病を取り上げていた。同級生の家族はやがて引っ越した。「息子が原爆の影響で死んだとなれば、そのきょうだいが差別に遭うと恐れていたと思う」。同級生の死は2世という自らの境遇を初めて意識するきっかけとなった。
時を経て99年。平野が会長を務めていた全国被爆二世団体連絡協議会は、放射線影響研究所(放影研、広島市・長崎市)が新たに計画した2世への健康調査を受け入れることで合意した。被爆者には被爆者援護法が適用され、医療費や健康管理手当などが支給される。2世も被爆者と同様、原爆による健康不安を抱えているとして、全国被爆二世協は国に同法適用を訴えているが、国の対策は年に1回の健康診断だけ。全国にどの程度の2世がいるのか、その数も把握されていない。
調査への協力は遺伝的影響を調べ、国の援護施策につなげたいとの思いからだった。放影研の遺伝的影響調査は今も続く。
2017年には遺伝の恐れがあるのに援護を怠っているとして、2世らが国に慰謝料を求める集団訴訟を長崎地裁などに起こし、係争中。「実感として遺伝はあると思う。可能性を過小評価すべきではない」。原告に名を連ねる平野はこう訴える。(文中敬称略)
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「被爆者なき時代」が近づく中、被爆2世として長崎の平和運動を長年率いてきた平野伸人さんの半生を通して、原爆を巡る諸課題や次世代継承を考える。