危機感高く、関心低く
6月7日。被爆者の全国組織、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)は大きな節目を迎えた。被爆者運動の要となる事務局長が17年ぶりに交代するなど新しい執行部を総会で決定した。会場の東京都内のホテルには約110人が出席し、例年になく大勢の報道陣が詰め掛けた。
会場の入り口には、全国の被爆者らでつくる「ノーモア・ヒバクシャ9条の会」の案内文書が張られていた。「安倍政権は米国の核兵器による威嚇と武力による『平和』を推し進め、9条改憲に前のめりになっている」と記し、被団協の総会後に開く会合への参加を呼び掛けた。
だが出席者は30人ほどで、報道陣も潮が引いたように帰って行った。「政権の暴走を止めるにはマスコミの力がいる。これでは護憲の大切さがみんなに伝わらない」。同会呼び掛け人の一人、宮城県原爆被害者の会事務局長の木村緋紗子(80)はマイクを手に取り、関心の低さに不満をあらわにした。
同会は2007年4月に被爆者や識者ら15人の呼び掛けで発足。14年には集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法案について被爆者アンケートを実施し、9割が法案に反対しているとの結果を公表。15年6月の国会審議中には「武力による自衛が悲惨な結末をもたらすことを被爆者は知っている」と指摘し、廃案を求めた。
この日の会合では、被団協が実施した最新アンケートの途中経過も報告された。被爆者が日本政府に求めることのトップは「憲法9条の堅持」で、「核兵器廃絶」を上回った。事務局は「改憲への危機感はかつてなく高まっている」と説明した。にもかかわらず、組織として改憲にストップを掛ける具体的なアイデアは出てこなかった。
長崎原爆被災者協議会副会長の横山照子(76)は、もどかしさを募らせた。発足当初は被爆者運動の象徴だった長崎の山口仙二らが呼び掛け人として精神的な支柱となり、活動を後押しした。しかし、呼び掛け人も山口ら6人が鬼籍に入り、組織の衰退を感じずにはいられなかった。
そんな中、神奈川県原爆被災者の会横浜支部で事務局長を務める松本正(86)がこう疑問を投げ掛けた。
「北朝鮮がミサイルを発射するたびに安倍政権の支持率が回復しているように思う。国民は政権に頼れば北朝鮮に対抗できると本当に信じているのだろうか」=敬称略=