被団協 非難懸念 謝罪求めず
「謝罪は当然。核兵器の非人道性を認めさせるべきだ」
「謝罪要求は削除すべきだ。目的は核廃絶にあるのだから、過去を問題にすべきでない」
1984年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が「原爆被害者の基本要求」を作成する際、米国政府への謝罪要求を巡り、全国各地の被爆者から賛否両論が事務局に寄せられた。当時の事務局員、栗原淑江(69)=東京都荒川区=は「原爆投下への強い怒りと、核廃絶を願うが故のさまざまな心境を思い知らされた」と振り返る。
今年5月、バラク・オバマ米大統領の広島訪問が決まった際も、謝罪を求めるか否かの議論がメディアを通じて報じられたが、同様の議論は20年以上も前に起きていたことになる。
基本要求作成時、被団協事務局次長を務めていた吉田一人(かずと)(84)=東京都杉並区=は「『謝罪』は賠償や言葉を必ずしも意味しない。米国が核廃絶へ努力するという立場に立ってこそ、謝罪の証しと受け取ることができる」と説明する。議論を重ねた結果、謝罪は要求に盛り込まれた。日本政府は51年のサンフランシスコ講和条約で米国への賠償請求権を放棄しているが、「原爆投下の道義的・政治的責任がこれで解消されるものではない」との見解も示した。56年の結成以来、米国への責任追及の在り方を整理したのは初めてで、今も活動の指針となっている。
だが、オバマの広島訪問前に在日米国大使館へ送った文書は謝罪要求を封印し、核廃絶の道筋を示すよう求めた。謝罪を持ち出すことで原爆投下の正当化論が根強い米国世論を刺激し、「大統領の被爆地訪問という好機を妨害するのかと非難が殺到することを心配した」(事務局長の田中熙巳(てるみ))。日本政府、長崎、広島両市も謝罪より訪問という「実を取る」選択をしていった。
結局、オバマは謝罪はもちろん、核廃絶の道筋すら示さなかった。被団協は6月の総会決議で「米国の大統領としての責任は一切語らなかった。2009年のプラハ演説の片りんも見られなかった」と批判。すると、決議を伝えるインターネットニュースのコメント欄に「何もかも批判していては、きりがない」などと被団協を非難する書き込みが相次いだ。
事務局長の田中は「米国への謝罪要求は掲げ続ける」としながらも嘆く。「被爆者の思いを理解できない人が増えているのかもしれない。でも、米国はいまだに原爆投下を間違いだったと認めていない。今後も叫び続けなければならない」=文中敬称略=