71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 中

被爆地域拡大などを推進するため長崎市が設置した市原子爆弾放射線影響研究会。被爆体験者訴訟の原告らも期待を持って傍聴に訪れている=2014年10月7日、同市桜町の県勤労福祉会館

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71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 中 25ミリシーベルト

低線量被害に踏み込む

2016/02/27 掲載

71年目の「被爆」認定 体験者判決の波紋 中

被爆地域拡大などを推進するため長崎市が設置した市原子爆弾放射線影響研究会。被爆体験者訴訟の原告らも期待を持って傍聴に訪れている=2014年10月7日、同市桜町の県勤労福祉会館

25ミリシーベルト

低線量被害に踏み込む

 「なぜ25ミリシーベルトでの線引きなのか」。22日の被爆体験者2陣訴訟判決で長崎地裁は、原告161人中、年間積算被ばく線量25ミリシーベルト以上と推定される10人を被爆者と認めた。科学的に未確定な低線量被ばく(100ミリシーベルト以下)の健康被害に踏み込んだ司法判断だが、原告らは唐突感のある独自基準に戸惑いもみせた。
25ミリシーベルト以上とした理由について、判決では自然放射線による年間被ばく線量の平均2・4ミリシーベルトの10倍を超える場合、健康被害を生じる可能性があると説明。被告の長崎市や県の担当者は「根拠が曖昧」と困惑し、原告側も線量での新たな線引きを懸念する。

 「25ミリシーベルト」という数値は、官民一体で進めた過去の被爆地域拡大是正運動とも深く関わる。この運動の一環で県市が実施した長崎原爆残留放射能プルトニウム調査(1990~91年)では、市東部の被爆未指定地域の生涯被ばく線量を最大2・5センチグレイ(25ミリシーベルト相当)と推計。しかし国は94年に「健康影響はない」と結論づけた。

 地裁判決はこうした国の判断に疑問を投げかけた格好だ。採用した原告側証人、本田孝也県保険医協会長による全原告の外部被ばく線量推定値は、米マンハッタン管区原爆調査団測定の放射線量データ(45年9~10月)を基に算出。勝訴原告10人は、線量25・5~64・9ミリシーベルトだった。

 市が被爆地域拡大などのため2013年設置した市原子爆弾放射線影響研究会(朝長万左男会長)は、同プルトニウム調査と同調査団測定の双方を検証済み。いずれも被爆未指定地域の生涯被ばく線量の最大値は「25ミリシーベルト」相当と推計され、焦点は低線量による健康影響に移っている。

 研究会委員の松田尚樹長崎大教授(放射線生物・防護学)は、地裁判決で「25ミリシーベルト」の根拠の一つに、福島第1原発事故を踏まえ住民の健康リスクを推計した世界保健機関(WHO)の報告書を挙げた点に着目。「報告書でも25ミリシーベルトは福島原発周辺住民の被ばく線量の最大値だが、健康影響が出たという報告にはなっていない」とする。

 その上で「例えば白血病の労災認定基準は『年間の被ばく線量が5ミリシーベルト以上で、被ばくから発症までの期間が1年超』など、それぞれ基準、数値は異なる。科学にも限界がある。明らかに健康リスクがあるともないとも言えない中で裁判所が出した結論だろう」と推察する。