戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 7

「この映画を見ると、原爆や戦争はあってはならないとあらためて思う」と語る平山さん=長崎市夫婦川町、雪月花映画劇場

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戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 7 長崎の映画 県教育映画等審議会長 平山進さん 「TOMORROW 明日」など

2015/08/19 掲載

戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 7

「この映画を見ると、原爆や戦争はあってはならないとあらためて思う」と語る平山さん=長崎市夫婦川町、雪月花映画劇場

長崎の映画 県教育映画等審議会長 平山進さん 「TOMORROW 明日」など

「原爆投下前の悲喜こもごもの人生模様が描かれ、黒木(和雄)監督の真摯(しんし)さが伝わる名作。被爆70年の節目に、あらためて価値を見直したい」。県教育映画等審議会長の平山進さん(84)=長崎市片淵2丁目=は、「TOMORROW 明日」(1988年)をこれからも見続けてほしい作品という。
本県出身の井上光晴の小説「明日 一九四五年八月八日・長崎」が原作。8月8日から9日の朝までに生きた長崎市民の群像劇。出産を控えた女性を桃井かおり、つつましい祝言を挙げた新郎新婦を佐野史郎と南果歩が丁寧に演じる。「美しい夏キリシマ」(2003年)「父と暮せば」(04年)とともに、黒木監督の「戦争3部作」と呼ばれる。
「登場人物は、『翌日、原爆が落とされる』などと夢にも思っていない。結婚や赤ちゃんの誕生といった庶民の希望が無残に断ち切られてしまうことを、映画を見る方はすでに知っている。それがつらい。時間が8月9日に近づくごとに、不気味な恐怖感がある」
淡々とした静かなタッチだが、戦争への強い怒りが感じられる。「結婚する若者の幸せを願って集まる近所の人たちの思い、赤紙一つで引き離される恋人同士の切なさなどが、丹念に表現されている。それだけに、最後のインパクトが強い。日常を奪った原爆への憤りが2倍、3倍に増す」。小説と異なり、タイトルは英語。「世界の心ある人に警鐘を鳴らすためだろう」
平山さんは県立長崎中3年だった14歳の時、爆心地から3・6キロ離れた本籠町(現・籠町)の自宅で被爆。学徒動員の夜勤明けで、台所にいた。「ピカッ、ドン」。強烈な黄色い閃光(せんこう)の後、地響きのような音がして爆風が起きた。天井が崩れ、空が見えた。
幸い家族は無事だったが、平戸に疎開していた10歳の妹が高熱を出し、原爆投下から9日後に他界した。「原爆で長崎は全滅と聞き、両親や僕らと連絡が取れなくて、ショックだったのでは」。今も、小さな亡きがらを思い出して悲しくなるという。
戦前から名画座に通っていた映画好きな平山さん。長崎市の瓊浦高で国語を教える傍ら、年間100本超の作品を鑑賞した。「良質な映画は子どもたちのいい教育になる」と信じ、30年以上にわたって県教育映画等審議会長を務める。
平和な未来を築くために必要なことは「人間が英知を持つこと」と語り、映画がその一翼を担うと信じている。「不戦の誓いとして制作された映画を見るたびに、作り手の思いをかみしめたい」