戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 3

「アートの最終目的は平和である」と語る井川さん=長崎市、長崎歴史文化博物館

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戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 3 長崎大名誉教授 井川惺亮さん 現代美術グループ「リングアート」

2015/08/07 掲載

戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 3

「アートの最終目的は平和である」と語る井川さん=長崎市、長崎歴史文化博物館

長崎大名誉教授 井川惺亮さん 現代美術グループ「リングアート」

この夏、平和をテーマにした数多くの美術展覧会が、被爆地長崎で開かれている。中でも、長崎市内の6会場を舞台に多彩な企画を展開しているのが、同市の現代美術グループ「リングアート」の「被爆70年を考える現代美術展2015」。運営責任者を務める長崎大名誉教授の井川惺亮さん(70)=西彼長与町=は、若い世代に美術を通した継承への思いを同展に込めている。

「アートの最終目的は平和である」-。1944年、愛媛県で生まれた井川さんは、戦争も原爆も体験していない世代。東京芸術大大学院を修了後、フランスのマルセイユ・リュミニ芸術建築学校を卒業。長崎大に赴任したのは84年の春だった。

学生とともに美術に打ち込む一方で、地域にも飛び出していった。「現代アートは地域とともにある。長崎に住む美術家として、被爆と平和を抜きに、アートの制作は考えられない」。被爆70年への思いは誰よりも強い。

長崎大を退職後、研究室の卒業生有志らと「リングアート」を発足させた。同展はポルトガル、ブラジル、中国、韓国、日本の作家約120人が賛同。平和を願って制作した平面、立体作品を各会場で順次展示している。9日はナガサキ誓いの火(爆心地公園)の灯火台に、折り鶴を飾るパフォーマンスも展開する。

中には、企画の意義を認めようとしない人もいる。「花火のようにイベントを打ち上げるだけ。被爆者にとっては毎日が被爆なんだ」。井川さんは、「被爆」をモチーフに呼び掛けた同展に「テーマ性」を見いだしている。「被爆50年の時は大規模な展覧会を開いたが、それに負けないような展覧会を開く行為こそが大事なんだ。個性、才能、細胞を作品にぶつけるのがアート。世の中を動かす大きな力があると信じている」

会場の一つ、長崎歴史文化博物館(同市立山1丁目)では、平面、立体など多彩な作品を展示(16日まで)。東京在住の芸術家が手掛けた縦約3メートル、横約40メートルのインスタレーションは、大戦で犠牲になった日本人の数と同じほどの小石約300万個が敷き詰められている。「石を亡くなった人の命と見たてて戦争の悲惨さに思いを巡らす人もいるのではないか」。作者はこう話した。

井川さんは、9色の鮮やかな原色で描いた抽象画の上に絵の具を走らせた平面作品を展示。「人との出会いをイメージした。絵の具が作者をこえて平和を語ってくれるかもしれない」

原色をそのまま使うのは、「絵画の単純性」を追求する井川さんのこだわり。「原色だけ使うのは幼い子どもくらい。子どものような心に戻りたい。人間の生き方の原点に戻り、平和の原点に戻る。そんな思いで描いている」。その思いを継ぐ仲間とともに、これからも街のどこかで平和の輪を描く。