戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 2

「これを読めば長崎の子どもが変わるかもしれない」と語る松原さん=長崎市銅座町

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戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 2 長崎の文学 私設図書館を運営・松原一成さん 遠藤周作「女の一生 二部・サチ子の場合」

2015/08/03 掲載

戦後70年・被爆70年 表現者たちは 継ぐ 2

「これを読めば長崎の子どもが変わるかもしれない」と語る松原さん=長崎市銅座町

長崎の文学 私設図書館を運営・松原一成さん 遠藤周作「女の一生 二部・サチ子の場合」

長崎市銅座町で私設図書館を運営する松原一成さん(64)の読み継ぎたい1冊は、遠藤周作の小説「女の一生 二部・サチ子の場合」(1982年)。「長崎というまちの宿命を描いた、長崎の人の必読書」と語る。
同作は、第2次世界大戦下の長崎で互いに好意を抱く幼なじみのサチ子と修平の悲恋を軸に、アウシュビッツ、特攻、原爆-と戦争の悲惨さを描く。物語の一つの核になるのが、キリスト教徒として人を殺してはいけないと教えられてきた修平の、戦地で敵を殺さなければならないことへの葛藤だ。
「ぼくら基督教徒は人の命ば大切にて、教えられてきたとでしょ。殺すなかれ、と言われてきたとです。それが兵隊にとられたら……敵ば殺さんばいかん。ぼくは教会がそいばどげん考えとるとか、わからんとです」
修平が東京の大学に通い始めたころ、戦況は徐々に悪化し、学生の徴兵猶予がいよいよ廃止されるといううわさが流れる。その予想は修平の毎日を「息ぐるしいまでに圧迫」し、修平はどうにか戦争で人を殺さなくてもいい方法がないかと模索する。松原さんは「戦争に行くのはいつでも偉い人ではなく若い人。こうして戦争は忍び寄ってくるのかという気がした」と話す。
松原さんは同市出身の元県職員で、これまで1万冊以上の書籍を読んできたという無類の本好き。昨年1月には繁華街の一角で蔵書を無料で貸し出す「松原図書館 忘れかけた本棚」をオープンした。同作は初版本が出た時に買って読んだという。「長崎の地名が出て、長崎弁で語られる。戦時中の長崎の様子をよく感じることができた」
修平は銃を撃てなくなるように人さし指の切断を試みるが、できない。そして何の解答も見つからないまま徴兵されると、特攻隊に志願することを選ぶ。「たとえそれが戦争であれ、私が誰かを殺す以上、私は、他人の人生を奪ったという、その償いをせねばならぬ。だから私もまた、死なねばならぬ。そう思ったのです」。出撃前日、サチ子と教会の牧師に宛てた遺書でそう告白する。
「これだけの苦悩を味わった戦争の経験が今に何も結び付いていない」。松原さんは安全保障関連法案が衆院を通過した現状を憂い、「戦争に加担しない平和国家として他にやれることがあるのではないか。今の若い人、政治家がこの本を読むことが大事」と話している。