原爆症認定 司法判断に国応えず
「医師も原爆のせいだと言っている」。原爆症認定を国に求め、長崎地裁で係争中の被爆者、山下トキ子さん(77)=長崎市小菅町=は眉をひそめる。原爆症の積極認定の対象、慢性肝炎を長年患う。肝機能改善のための注射は週1本から2本に増え、悪化している。
山下さんは東立神町(爆心地から4・0キロ)の自宅前で被爆した。2日後、爆心地近くの浦上川沿いを通り入市被爆。式見へ避難した。このころ、下痢や脱毛の急性症状が出た。慢性肝炎で1986年ごろから入退院を繰り返している。
2008年に原爆症認定を申請したが、「原爆放射線に起因していると判断するのは困難」との理由で却下され、異議申し立ても棄却された。なぜ「判断するのは困難」なのかは分からない。
昨年3月に始まった訴訟。弁論のたびに長崎地裁へ足を運ぶ。難しい書面のやりとりを十分理解できているわけではない。「被ばく量と病気の関係を科学的に証明しなさいと国側に言われるらしい」。不安もあるが「私は司法を信じたい」。
国は厳しい審査基準で援護の枠を狭め、次々に申請を却下している。却下された被爆者の一部は、各地で訴訟を起こし、司法に救済を求めている。審査基準に当てはまらない場合でも、司法は内部被ばくなどを考慮。原爆症と認める判決は後を絶たない。
審査結果と司法判断との乖離(かいり)。これを埋めるため、厚生労働省は10年、有識者検討会を設置。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)側が審査基準の抜本的見直しを求めたが、医学専門家らは否定的な見解を貫き、3年にわたる議論は平行線をたどった。結局、基準は一部見直しにとどまった。
その後も認定者数は予想ほど伸びていない。長崎市は原子爆弾被爆者援護強化対策協議会(原援協)の厚労省への要望などで「被爆者に寄り添った制度とするため、必要な改善を」と求めている。市援護課は、被爆者の高齢化を踏まえ、「(長い時間を費やす)訴訟で認定を求めるのはあるべき姿でない」と指摘する。
認定支援に取り組む長崎原爆被災者協議会の山田拓民事務局長(84)は「国は原爆被害に向き合い、司法判断を誠実に受け止めるべき。被爆70年を機に、基準の抜本的見直しに踏み出してほしい」と語る。