被爆地域拡大 市と県 連携ちぐはぐ
長崎市は7月、「被爆地域の拡大是正」について14年ぶりに国への要望活動を再開した。爆心地から半径12キロ圏内にある被爆地域外で原爆に遭い、被爆者と認められない「被爆体験者」。その高齢化が進む中、被爆70年の節目に救済の観点から課題解決を目指すが、県との連携はちぐはぐ。国を動かす有効な次の一手は見えない。田上富久市長の政治力が問われている。
「ヤマが動いた」-。31日、同市内であった全国被爆体験者協議会の総会。市の“方針転換”を報告する岩永千代子事務局長(79)の表情は明るかった。出席者からは「市長のパフォーマンスであっても、動いてくれたことはうれしい」との声が聞かれた。
市が要望再開を決断した背景に高齢化がある。市内の被爆体験者(健康診断受診者証所持者)6430人の平均年齢は77・6歳(4月末)。被爆地域を広げることに何か見通しが市にあるわけではないが「今動かなければ間に合わない」との判断が働いた。県などに意向を伝え6月下旬、田上市長が方針を表明。7月上旬、厚生労働省や自民党の議員連盟などに要望した。だが連携すべき県の中村法道知事は「唐突感がある」とし、「過去の経過がある」と慎重姿勢だ。
長崎の被爆地域は南北約12キロ、東西約7キロ。原爆投下時の行政区分を考慮したいびつな形。県市は過去、一体となって国に拡大是正を訴えたが、旧厚生省のいわゆる基本懇答申が示した「科学的・合理的根拠」が壁に。原爆のトラウマ(心的外傷)を根拠にようやく2002年、被爆体験者支援事業が創設された。県議の一人はその過程で国側から、これ以上の要望はしないことを念押しされた、と証言する。しかし同支援事業は、がんなどが医療費給付の対象外。被爆者と援護格差がある。05年、給付制度が厳格化。07年に被爆体験者は集団訴訟を起こした。
自民議連は7月下旬、厚労省などに被爆者問題に関する要望書を提出。同支援事業の拡充は盛り込んだが、被爆地域拡大には踏み込まなかった。議連メンバーは「県市の足並みがそろっていない中では要望できない」としている。
市に対し「見通しもないのに無責任では」(県議)との声も聞かれるが、田上市長は「被爆70年のことし、何らかの動きを新しくつくることができないか。要望活動を続けたい」とする。