情勢 ジレンマ抱える被爆国
核拡散防止条約(NPT)再検討会議初日の4月27日、国連本部の大会議場。岸田文雄外相が一般討論で演説した。
「広島出身の外相として『核兵器のない世界』に向けた取り組みを前進させる」。そう決意を示す一方、「核軍縮・不拡散の取り組みに近道はない」「現実的かつ実践的な取り組みを積み上げることこそが取るべき道」と、核保有国と同様の「核兵器の段階的削減」を主張した。核兵器禁止条約に触れることもなかった。
「聞き心地はいいが、新しいことは何も言っていない」。核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員長の朝長万左男さん(71)は、傍聴席でつぶやいた。
幼児期に被爆した朝長さん。被爆医療の研究で実績を上げた父と同じ道を歩み、原爆後障害の研究に長年携わった。2年前からは国際会議で、核兵器が現代社会で使われた場合の被害予測など非人道性に関する研究成果を発表してきた。
核兵器廃絶は被爆者の悲願。ここ数年、非人道性に基づく法的枠組みづくりに向けた機運の高まりを確かに感じている。だからこそ被爆国としてリーダーシップを発揮してほしかった。
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3日後、朝長さんらは、北東アジア非核兵器地帯をテーマにした非政府組織(NGO)のフォーラムに足を運んだ。日韓と北朝鮮を非核地帯にする構想で、日本が米国の「核の傘」から脱却したり、朝鮮半島の戦争状態を終結させたりしようというものだ。
日本をはじめ、韓国、モンゴルのNGO関係者らが参加。出席者からは「この構想は、日本政府が『核の傘』からの脱却を検討するきっかけにはなるかもしれないが、日米安保条約がある以上、実現は考えられない」との指摘が出た。
先頭に立って核廃絶を求めるべき立場でありながら、超大国の核の傘の下に居続ける日本。朝長さんは浮き彫りになったジレンマを感じつつ、科学者、被爆者として事態打開の必要性を訴え続ける。「被爆国日本は核兵器禁止の機運の高まりに水を差している。この状況をまず改めなければ」