落差 報じられない大行進
米ニューヨークの摩天楼の一角が、にぎやかな雰囲気に包まれた。
「ノーモアナガサキ、ノーモアウォー」
5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の開幕を翌日に控えた4月26日、恒例の平和大行進。約6千人がカラフルな横断幕やプラカードを掲げ、歌やシュプレヒコールを響かせた。沿道では手を振って応える人の姿もあった。
だが、核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委の代表団として参加した被爆者の田中安次郎さん(72)は違和感を覚えた。
「カーニバルのような騒ぎで、核兵器をなくそうというメッセージが本当に伝わるのか」
翌朝、ホテルで現地の大手紙を広げると、平和大行進のことは一行も載っていなかった。対照的に、「核の傘」の維持を含む新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)がニューヨークで決まったことは、きちんと報じられていた。「あんなに多くの人が行進したのに。自分たちだけでワーワー叫んでいても駄目なのか」
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「人種のるつぼ」といわれるニューヨーク。米国内でも特にリベラル(自由主義)な地とされる。人権問題などのデモも盛んだ。
だが地元のジャーナリスト、ヘザー・ハーラン・中垣さん(45)は「核兵器への関心はほとんどない。NPT再検討会議も、国連で開かれる数多くの会議の一つと受け止められており、特別視されていない。大きな動きがあれば別だが」と語る。
そして米マスコミは、被爆者がデモをしても体験を証言して回っても取り上げない。非政府組織(NGO)ピースボート共同代表の川崎哲さん(46)は「日本から多くの人が訪米しているのだから、どうすればメッセージが伝わるのかもっと考えなければ」と指摘する。
だが川崎さんは、海外のNGO仲間にこんなことも言われた。「大行進やNGOセッションであれだけの動員力があるのなら、核兵器禁止の法的枠組みづくりに賛同するよう日本政府に圧力をかけるのが先ではないのか」