体験「継承できる」7割
2015年の被爆70年に合わせ、長崎新聞社は被爆者の意識を探るため、県内と米国の被爆者団体などの協力を得て、10の設問でアンケートを実施。東アジア情勢を踏まえ現実的な安全保障の在り方を冷静に見つめる心情が垣間見られる一方、将来にわたって核兵器使用の惨禍を被爆2世や市民らが後世に伝えていってくれるという希望も抱いていることが分かった。
核兵器をめぐる世界の動き、集団的自衛権の行使容認など六つの設問(選択式)について、回答を基に分析した。残り四つの設問(記述式)については後日、詳報する。
◎アンケート方法
県内と米国合わせて計12の被爆者団体などに協力を依頼し、2014年9~12月に実施。388人(男性210、女性171、無回答7)から回答を得た。設問は10問。うち5問は選択肢から一つを選び、回答理由の記述を設けた。残り5問のうち1問は複数回答可の選択式で、4問は記述式。
協力団体は次の通り。
▽長崎原爆被災者協議会▽長崎原爆遺族会▽県被爆者手帳友の会▽県平和運動センター被爆連▽県被爆者手帳友愛会▽県原爆被爆者島原半島連合会▽長崎原爆被爆者の会▽川棚町原爆被爆者協議会▽県原爆被爆者諫早連合会▽被爆者歌う会「ひまわり」▽恵の丘長崎原爆ホーム▽米国広島・長崎原爆被爆者協会
◎回答者の内訳(単位・人、無=無回答)
▽総数=388(男210、女171、無7)▽被爆距離=爆心地から3キロ未満92、同3キロ以遠179、入市51、救護34、胎児10、無22▽年齢(1月1日現在)=60代17、70代183、80代165、90代17、無6▽居住地=長崎165、長与・時津57、諫早56、西海14、島原半島29、その他の県内11、県外(海外含む)21、無35
◎「体験話していない」4割
最近、被爆体験を話した人は55・7%、話していない人は39・9%。高齢化で被爆の記憶の継承は時間がなくなりつつあるが、4割が「思い出したくもない」(93歳女性)などとして身内にも話していない状況が浮かび上がった。
話した動機では、原爆の日が近づくと子どもに話したり(82歳男性)、記憶が薄れてきたため「これはいけない」と思って子どもに語ったり(85歳女性)する人がいた。
一方、話していない理由で、「若者らに話す機会がない」(83歳男性)「周りも聞こうとしない」(87歳女性)など、語る用意はあってもきっかけがない状況、「つらくて話したくない」(94歳男性)「言いたくない」(75歳男性)など記憶の想起が大きな負担となっている状況もあるようだ。幼少期に被爆した人は「話すだけの記憶がない」(73歳女性)などとしている。
「(被爆が)子どもに影響すると聞いた」(84歳男性)など、後世への健康影響や差別を今も恐れ、口をつぐんでいる人もいた。(山田貴己)
◎「継承できる」7割
被爆者が高齢化していなくなった後、被爆2世や市民は被爆の記憶を伝えていけるのか。「できると思う」(30・9%)と「少しはできると思う」(39・2%)を合わせ、肯定的な見方が70・1%を占めた。
継承の面では、被爆者の子や孫が体験を語り継ぐ活動を支援する長崎市の「家族証言」推進事業が始まり、朗読や紙芝居といった手法の取り組み、被爆者団体の2世組織の動きも活発化。核兵器廃絶を訴える高校生の活動は広がりを見せている。「被爆2世や市民が語り部として育成されている」(69歳男性)など、将来への期待感が多く寄せられた。
否定的な意見では被爆体験の壮絶さからか「体験しないと伝えるのは難しい」(74歳女性)といった声もあった。
証言の映像化や文書化、義務教育への導入など社会全体で伝える仕組みづくりを求める声も。「核の傘」政策を堅持する政府に83歳男性は「反核の取り組みをしない限り、被爆の記憶は語られても空洞化する」と注文を付けた。(蓑川裕之)
◎「政府は核削減 要請を」最多
核兵器を減らすため、日本政府はどう行動すべきか。複数回答で「核兵器保有国に核兵器を減らすよう強く要請する」が69.1%、「海外で原爆被害をもっと積極的に伝える」が64.7%と続いた。唯一の被爆国として、国際社会への働き掛けの強化を望む意向が強いことが分かる。
「被爆者や被爆地の若者を海外に派遣し、理解を広げる」は45.4%。「まず国内の原子力発電所をなくす」は43.8%。
その他では、「核に変わる発明・発見に力を注ぐ」(88歳男性)「戦争をまずやめさせる」(87歳女性)「あらゆる手段で地道に原爆の恐ろしさを世界へ広め、核廃絶を訴え続けること」(80歳男性)-など。