家族でクリスマス祝う 撮影の熱意 父衰えず
道向市昭(70)は、子どものころ、父の實(2011年95歳で死去)から写真を撮られるのが好きだった。今もアルバムをめくれば楽しかった思い出がよみがえる。
長崎市松が枝町の自宅で、クリスマスツリーをバックに8歳の市昭と妹が笑顔で納まる写真。とんがり帽子をかぶり、楽器代わりの金だらいを持つ2人の表情からは楽しい雰囲気が伝わってくる。裏面の記載は「昭和28(1953)年、クリスマスパーティー」。
父が伐採してきた木に、きょうだいで飾り付けた。「サンタクロースが来る」「夜はパーティーだ」。きょうだいの会話も弾んだ。壁に貼った新聞紙は壁紙代わり。戦後の貧しさを引きずりながらも、クリスマスを祝う心のゆとりが生まれていた。
家族でよく出掛けもした。父は行く先々で子どもたちにレンズを向け、55年には完成した平和祈念像を背に撮った。いつの間にかカメラの台数は増え、そのたびに母は渋い顔をしたが、父はお構いなし。撮影から帰ると、押し入れを改造した暗室に長時間こもる姿を市昭は覚えている。
「撮影は、忍耐のひと言」「気に入った構図を決めたら、たとえ一年でもひたすら待て」-。よく持論を語っていた。熱意は衰えることなく、90歳を超えてもテントを積んでバイクで撮影に出掛けた。膝と腰を悪くして医師にバイクに乗らないよう注意されても、聞き入れなかった。母の死後はカメラで寂しさを紛らわしているようにもみえた。「酒やたばこを好まない父の唯一の楽しみだった。人生そのものだった」(文中敬称略)