被爆70年へ 長崎の記憶 写真が語る戦前~戦後 第1部「父のアルバム」 1

1929年の横浜就航時とみられる豪華客船「浅間丸」。三菱重工長崎造船所が建造した(島兵司さん提供)

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被爆70年へ 長崎の記憶 写真が語る戦前~戦後 第1部「父のアルバム」 1 国威示す豪華客船・浅間丸 亡き父「よか船やった」

2013/07/17 掲載

被爆70年へ 長崎の記憶 写真が語る戦前~戦後 第1部「父のアルバム」 1

1929年の横浜就航時とみられる豪華客船「浅間丸」。三菱重工長崎造船所が建造した(島兵司さん提供)

国威示す豪華客船・浅間丸 亡き父「よか船やった」

2015年8月、日本は被爆、終戦70周年を迎える。被爆、戦争体験者は高齢化が進んでおり、当時20歳だった人は90歳になる。既に多くが鬼籍に入った。
被爆地の起点「戦争と原爆投下」の記憶の風化は今、急速に拡大している。長崎新聞社は、個人が保管する長崎の記録の散逸を防ごうと、12年度から長崎平和推進協会写真資料調査部会(深堀好敏部会長)と連携。「『長崎の記憶』写真募集」と題し、長崎の戦前~昭和30年代の写真提供を呼び掛け、画像データをコピー(原本返却)し未来へ保存する試みを進めている。

長期企画「長崎の記憶」では、提供写真を随時厳選。関係者の取材を通じ、長崎の戦前、戦中、戦後を15年度まで見つめていく。


1929(昭和4)年10月11日、横浜。岸壁には多くの人々が集まっていた。豪華客船「浅間丸」の就航を見届けるためだ。

浅間丸は日本郵船(東京)が発注、三菱重工長崎造船所で建造された。全長178メートル、1万6947トン。世界最高水準と評され「太平洋の女王」と呼ばれた。

就航時とみられる写真を保管しているのは長崎市金屋町の島兵司さん(79)。父の哲夫さん(78年に77歳で死去)の古いアルバムに「浅ま丸」(“ま”は変体仮名)と記し、貼ってあった。カメラが趣味だった哲夫さん。兵司さんは「父が撮ったとやろうね」と話す。

哲夫さんは、三菱工業学校から同造船所に入社。勤めながら九州帝国大工学部機械科に進んだ。同造船所では造機設計を担当。浅間丸の設計にも携わった。
浅間丸は当時、その豪華さから世界の注目を浴び、ハリウッドスターのほか、ヘレン・ケラーも来日した際に利用。だが日本はやがて満州事変、日中戦争、太平洋戦争へと突き進み、「太平洋の女王」は、数奇な運命をたどる。

長崎市金屋町の島兵司さん(79)が長崎新聞社に提供したのは、大正末期から昭和初期に撮影された写真。三菱重工長崎造船所に勤め、カメラを5台も所有していた亡父、哲夫さんがアルバムに保管していた。
兵司さんは戦後、哲夫さんと一緒にアルバムを何度も見たという。哲夫さんが同造船所で建造された浅間丸の写真を眺め「よか船やったとよ」と懐かしがっていたことをよく覚えている。「こんな船が長崎で造られたなんてすごい」。兵司さんは設計に携わった父が誇らしかった。

浅間丸は1929年、横浜-ホノルル-サンフランシスコの太平洋航路に就航。運航はそれまでと比べ24時間短縮。当時では驚異的な12日と7時間46分でサンフランシスコに渡った。横浜就航時の写真は、同造船所にはないという。
内藤初穂著「狂気の海 太平洋の女王浅間丸の生涯」などによると、建造は大正末期に計画。造船業界は第1次世界大戦で活況を呈したが、その後、世界的不況に見舞われる。航路を存続させたい政府は資金面で援助。浅間丸以降も、次々に豪華客船が海外に向かって出港した。

同造船所総務課の稲岡裕子主任は「客船は国威を示すとされ、浅間丸は海外の客船に対抗する形で造られた。今(写真を)見ても豪華」と話す。日本郵船歴史博物館のホームページでは、浅間丸はラウンジや読書室、ギャラリー、美容室、和室など完備。調度品は一級品を輸入し、装飾は英国クラシック様式が基調。アルバムの写真では、テーブルといすが配された食堂に米連邦議会議事堂の模型が飾られ、各席にはきれいに畳まれたナプキン。ランプが高級なムードを演出している。外国人観光客らは優雅な船旅を楽しんだはずだ。

哲夫さんのアルバムには29年4月の同造船所立神船台などの航空写真もあった。これは同造船所の記念誌「創業百年の長崎造船所」に収められており「当時の豪華船優秀船5隻をならべ、船台は久しぶりの活況に賑わい、この年の進水量は世界の上位を争った」と記している。稲岡主任は「造船所の発展は、日本の発展を表していた」と話す。

41年、太平洋戦争に突入すると、浅間丸は海軍輸送、日米間の交換船、海軍戦闘機隊の保養施設に転用。戦争の渦へ巻き込まれていった。同記念誌などによると、浅間丸は空母化改造計画が進められたが44年、マニラを出港しバジー海峡に差しかかったところで、米潜水艦から2回にわたって攻撃を受け、約10分後、沈没した。