取り残された「被爆者」 体験者訴訟判決を前に 6(完)

仮設住宅の前で浪江町の厳しい現状を語る紺野課長=福島県二本松市

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取り残された「被爆者」 体験者訴訟判決を前に 6(完) 「ヒバクシャとは何か」 低線量の評価 福島も注目

2012/03/15 掲載

取り残された「被爆者」 体験者訴訟判決を前に 6(完)

仮設住宅の前で浪江町の厳しい現状を語る紺野課長=福島県二本松市

「ヒバクシャとは何か」 低線量の評価 福島も注目

「町民の不安解消には、法に基づく恒久的な支援が不可欠」。今月7日、厚生労働省の副大臣室。福島第1原発事故で全町避難となった福島県浪江、双葉両町長は、町民の医療費無料化など「原爆被爆者と同等の援護」を国に要望した。

現在、国は浪江町など避難区域住民を対象に医療費無料化措置をとっているが、来年2月までの期間限定(18歳未満と妊婦はその後も減免)。被爆者と同等の-という発想は、浪江町健康保険課長の紺野則夫(57)らが、全町民の健康を将来にわたり守る方策を検討する過程で浮かんだという。

浪江町では昨年3月の事故後、情報がない中、原発の北西約30キロの津島地区に避難。約1万人が4日間過ごした。上水道が未整備のため、避難者らは井戸水を飲み、調理に使った。だが同地区は原発事故の放射性物質が流れた方向に位置していた。国が予測データを公表していなかったため、放射性物質濃度の高い場所に避難してしまったのだ。町民に内部被ばくの不安が広がった。

「心配ない」「何十年か後に影響が出る恐れがある」-。専門家たちは健康影響についてそれぞれの立場で発言し、町民は一層混乱。「判断するのはわれわれ自身。自己管理に努めることが大切だ」。紺野らはそう考えるようになった。

町は独自にホールボディーカウンターによる内部被ばく検査を始める一方、行動記録や健康状態を記す「放射線健康管理手帳」の発行を決定。全町民約2万1千人に今月末から配布する。この手帳に医療費減免などの特典はないが、作製時に参考にしたのが「被爆者健康手帳」だった。

全町民の健康管理を継続的に支える仕組みづくりを国にどう実行させるのか。そのヒントは、同じ核による被害地の長崎、広島にあると紺野らは考えている。

長崎では爆心地から一定離れた地域の「被爆者」と認められていない人たちが、原爆で健康被害を受けたとして被爆者手帳の交付を求めて裁判で闘っている。福島の浪江、双葉両町も、町民が原発事故で被ばくし生涯にわたる健康不安を与えられたとして被爆者手帳と同等の法的根拠に基づく管理手帳の交付を国に求めている。いずれも行く手には、研究がまだ十分に進んでいない低線量の内部被ばくをどう評価するのかという問題が横たわっている。

「ヒバクシャとは何か」「国や行政がすべきことは」-。司法はどのような判断を下すだろうか。紺野はこう語る。「被爆体験者訴訟第1陣の長崎地裁判決は、福島にとっても一つの答えになる」

=文中敬称略=