東日本大震災から1年 低線量被ばく 長崎大と福島 8(完)

「原発事故の問題を福島だけに矮小化してはいけない」と語る菊地理事長兼学長=福島市、福島県立医科大

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東日本大震災から1年 低線量被ばく 長崎大と福島 8(完) インタビュー 福島県立医科大理事長兼学長菊地 臣一氏(65) 健康への不安収まらず 原発事故の矮小化を懸念

2012/03/11 掲載

東日本大震災から1年 低線量被ばく 長崎大と福島 8(完)

「原発事故の問題を福島だけに矮小化してはいけない」と語る菊地理事長兼学長=福島市、福島県立医科大

インタビュー 福島県立医科大理事長兼学長菊地 臣一氏(65) 健康への不安収まらず 原発事故の矮小化を懸念

福島第1原発事故を受け、全県民約200万人の健康調査の拠点を担う福島県立医科大。世界でも前例のない大規模な調査にどう取り組み、低線量被ばくに対する住民の健康不安にいかに応えるのか。企画を締めくくるに当たり、被爆地長崎との連携や福島の現状を含め、菊地臣一理事長兼学長(65)に聞いた。

-原発事故から1年がたった。

未知なるもの(放射線)への不安、恐怖、それが一人ではなくて全県民を襲った。「大学こそとりで」との思いから、すぐに長崎、広島両大学長に電話し、専門家の派遣を要請。リスクコミュニケーションに全力を注いだ。自衛隊、警察、消防、病院、行政、建設会社に至るまであらゆる有事対応組織が効率化という名のもとに余裕がなく、放射線に対する確固たる知識もなかったことがあらわになった。大きな教訓だ。

-県民の不安は。

県民の怒りはおさまらず、小児、妊産婦の健康不安も途切れることはない。原発もまだ予断を許さない状況だ。いくら科学的な情報を提供しても、心は科学で納得できるものではない。今も風評被害に苦しんでいるが、原発事故を福島だけの問題に矮小(わいしょう)化してはいけない。

-健康調査の進捗(しんちょく)は。外部被ばく線量を推計する問診票の回収率は約20%(県全体)、一部で伸び悩みが指摘されている。

原発に近い地域は回収率が高く、遠い地域は低い。県民の健康不安を取り除くためには欠かせない調査であり、心の安心のためにやる事業でもある。われわれの子や孫たちのために、長崎、広島と同様に精緻なデータを残す必要があり、回収率向上にあらゆる努力をしている。

-避難住民の健康状態は。

心身に大きなストレスを抱えている。正式な数は出ていないが、病気や体調を壊している人はかなり多い。原発がある太平洋沿岸と避難先の内陸部では文化や言葉、気候も違う。高齢者は体を壊さない方がおかしい。震災犠牲者の遺族でありながら復旧復興を担っている人たちも、心のバランスが取れなくなり、第一線から退くケースが多い。

-一部の自治体で帰還の動きが出ている。

帰還の中心は高齢者になるだろう。住民構成は大きく変わり、そこに日本の未来の姿があるのだと思う。従来の医療体制ではなく、農林水産業や介護、医療が一体となった新たなモデルの構築が求められている。これは福島だけでなく、全国民に突きつけられた課題。政府を中心にあらゆる領域の人たちによる集約的なアプローチが必要だ。

-長崎との連携は。

長崎大をはじめ県や市も非常に共感をもって対応してもらった。同じ体験を共有したからこそだと思う。復興に向け前例のない取り組みが始まるが、ノウハウはどこにもない。事故から1年を迎え、問題解決のため感情抜きに事実と向き合うときが来た。今後も長崎大をはじめ全国の人々に共感をもって支援してもらうためには、県民自らが立ち向かわなければならない。
=おわり=