防護 可能な範囲でより低く 放射線教育の不備指摘
日本の放射線量の規制値は、国際放射線防護委員会(ICRP)の基準を採用。一般人で通常、自然放射線などを除き年間1ミリシーベルトだが、原発事故後、国は福島県の学校などの屋外活動を制限する線量を年間20ミリシーベルト以上と設定。「高すぎる」と批判の声が広がった。
放射線は、どんなに少ない量でも体に何らかの作用があると考えられる。実際の健康影響については、広島、長崎の研究で一度に100ミリシーベルトを超えた量を浴びると発がんリスクが上昇することを確認済み。それ以下の被ばくでは明らかな健康影響は分かっていない。
年間1ミリシーベルトや同20ミリシーベルトなどの規制値と、一度に100ミリシーベルト超を浴びると発がんリスクが上がるという研究結果。数値はあまりにも幅があり、分かりにくい。長崎大大学院医歯薬学総合研究科教授の高村昇(43)は「規制値イコール健康影響が出る値ではない。放射線防護のラインと、健康に影響がみられる線量は、分けて考えなければならない」とする。
高村によるとICRPは、100ミリシーベルト以下の健康影響は証明されていない点を踏まえた上で、積算も含めて100ミリシーベルト以下の被ばくについて放射線が微量でも、発がんリスクが比例して高まると仮定。「経済的、社会的に実行可能な範囲で、できる限り低く」という立場だ。通常時は年間1ミリシーベルトだが、放射線災害発生時は50ミリシーベルトで避難などの措置をとり、災害が継続する際は年間20~100ミリシーベルトの範囲で、できるだけ低い線量を基準とするよう勧告している。
規制値などをめぐる混乱について、研究者の中には、原発安全神話の下で放射線に関する教育が行われてこなかったことを要因として挙げる声は多い。
2月下旬、福島市内の仮設住宅。「健康かどうか結論なんか出ない。津波で流された兄と義姉も見つからん。もういい」。浪江町の避難者、柴野利夫(69)が吐き捨てた。地震、津波、原発事故の三重苦にあえぐ声は切実だ。特に原発事故は人と国土、海を汚染し、地域復興を遮り、健康不安をはびこらせている。その根源が、放射性物質の放つ放射線であるのは間違いない。
原発事故から1年を振り返り、福島県立医科大副学長の山下俊一(59)はこう語った。「世界から福島に来てもらいたい。科学のおごり、科学の限界、いったん(原発)事故が起きたときの人の心の動きもしっかりみてほしい」=文中敬称略=