小児甲状腺がん 発生率推移を長い目で チェルノブイリ事故教訓に
放射性物質が大量放出された福島の原発事故では、例えばどんな健康被害が想定されるのか。国際評価尺度(INES)で福島と同じ最悪水準「レベル7」なのが1986年発生のチェルノブイリ原発事故。同事故で疫学的に証明されているのは、事故当時の子どもが4~5年後から発生した小児甲状腺がんだ。
支援に携わる長崎大大学院医歯薬学総合研究科教授の高村昇(43)=放射線医療科学専攻=によると約6千人が手術を受け15人が亡くなった。本来、15歳未満の発生は少ないが、チェルノブイリ事故では当時0~5歳だった子どもの発生率が高かった。
長崎大が行った独自調査では、同事故時に子どもだった約1万人の甲状腺を超音波検査で診断し約30人に甲状腺がんを確認。一方、事故後に生まれた約1万人にはなかった。「小児甲状腺がんの原因は、原発事故直後には存在し、その後速やかになくなった物質。つまり半減期が8日間と短い放射性ヨウ素と考えられた」。大量放出された放射性ヨウ素が、牛乳や食物などを通じ子どもの甲状腺にたまり内部被ばくした。
「福島ではいち早く食物や水の暫定基準を作り、放射性ヨウ素が口から入るのを防いだ。チェルノブイリとの一番の違いは初期に内部被ばく対策を取ったこと」。高村はそう強調する。
それでも福島で恐れられているのは、やはり小児甲状腺がんだ。福島県は18歳以下の約36万人について、生涯にわたる定期的な甲状腺検査に乗り出した。先行実施した避難区域の結果では、3765人のうち、悪性が疑われるケースはなかった。しこりなどがないA1判定が約7割。問題ないとされる5ミリ以下のしこりや20ミリ以下の嚢胞(のうほう)があったA2は約3割でA1と同じ再検査対象外となったため、母親たちからは不安の声も寄せられた。良性のしこりなど0・7%が再検査となった。
同県立医科大乳腺・内分泌・甲状腺外科部長、鈴木眞一(55)は「小児甲状腺がんの発生率は18歳未満で100万人に1、2人、福島県では2~3年に1人の計算」とした上で、今後本格化する検査で通常見つからない微小がんなどを発見する可能性もあり、そのため被ばくと関係なく発生率が少し上がることが予想されると指摘する。
事故の4~5年後から発症が増えたチェルノブイリの前例を踏まえ、鈴木は「子どもたちの現在の甲状腺の状態を十分把握し、ある時期から突然増えないかなどを長期的に診ていく」と語る。=文中敬称略=