瀬戸際 被ばく者か否か 揺れる 「学校疎開」求める保護者
6月中旬、福島県内の保護者らでつくる市民団体「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」代表、中手聖一(50)の携帯電話は、県外への避難を考える保護者からの相談でふさがっていた。
電話を切った中手は、放射能汚染を嘆き「いずれ援護運動など原爆被爆地の教訓を生かすときが来るのかもしれない」と複雑な表情。そして「いや、まだ間に合う。このまま黙って被ばくを受け入れるわけにはいかない」と気を取り直した。ここは安全か危険か、私たちは被ばく者か否か-。瀬戸際で思いは激しく揺れる。
小学生2人の父親でもある中手は4月初旬、福島県が全小中学校などで実施した空間線量調査の分析結果にショックを受けた。76%の学校が、法令で定める「放射線管理区域」(時間換算で0・6マイクロシーベルト)の基準を超えていたからだ。「放射線の影響を受けやすい子どもたちをそんな環境には送り出せない」
中手はすぐさま授業中止と学童疎開を求める進言書を県と市町村に送った。だが事態は思わぬ方向に展開していく。文部科学省は2日後、学校の校庭活動基準「年間被ばく線量20ミリシーベルト(毎時3・8マイクロシーベルト)」を発表。放射線管理区域を大幅に上回る基準設定に、国への不信感は一気に高まった。しかし、地元行政は国が示した基準に傾いていく。
追い打ちを掛けるように地元では専門家たちが講演会で「心配する必要はない」との主張を繰り返していた。「当時、放射能の不安におびえる県民の多くは『危険』と言われることを恐れ、精神的な『安心』を求めていた。騒いでいる保護者はごく一部。しかも風評をあおっていると非難され、地域や学校で孤立しているのが現状だった」
そこで中手は思いを共有する組織の立ち上げを呼び掛け、5月に同ネットワークを設立。県内の保護者や首都圏の市民運動とも連携し、学校が目指すべき被ばく線量「年間1ミリシーベルト」を文科省から引き出す原動力となった。だが、親たちの不安が収まったわけではない。同ネットワークは今、自主避難に対する補償や、学校を一時的に県外に避難させる「サテライト疎開」の設置を行政に働き掛けている。「それでもいずれは福島に戻りたい」。それが真の願いだ。
「われわれの主張はだいぶ浸透してきた。しかし放射線リスクを軽視する“安全宣言キャンペーン”の余韻はまだ残っている」と中手。責任追及の矛先は政府や東京電力にとどまらず、被爆地長崎の専門家にも向けられた。(文中敬称略)
6月中旬、福島県内の保護者らでつくる市民団体「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」代表、中手聖一(50)の携帯電話は、県外への避難を考える保護者からの相談でふさがっていた。
電話を切った中手は、放射能汚染を嘆き「いずれ援護運動など原爆被爆地の教訓を生かすときが来るのかもしれない」と複雑な表情。そして「いや、まだ間に合う。このまま黙って被ばくを受け入れるわけにはいかない」と気を取り直した。ここは安全か危険か、私たちは被ばく者か否か-。瀬戸際で思いは激しく揺れる。
小学生2人の父親でもある中手は4月初旬、福島県が全小中学校などで実施した空間線量調査の分析結果にショックを受けた。76%の学校が、法令で定める「放射線管理区域」(時間換算で0・6マイクロシーベルト)の基準を超えていたからだ。「放射線の影響を受けやすい子どもたちをそんな環境には送り出せない」
中手はすぐさま授業中止と学童疎開を求める進言書を県と市町村に送った。だが事態は思わぬ方向に展開していく。文部科学省は2日後、学校の校庭活動基準「年間被ばく線量20ミリシーベルト(毎時3・8マイクロシーベルト)」を発表。放射線管理区域を大幅に上回る基準設定に、国への不信感は一気に高まった。しかし、地元行政は国が示した基準に傾いていく。
追い打ちを掛けるように地元では専門家たちが講演会で「心配する必要はない」との主張を繰り返していた。「当時、放射能の不安におびえる県民の多くは『危険』と言われることを恐れ、精神的な『安心』を求めていた。騒いでいる保護者はごく一部。しかも風評をあおっていると非難され、地域や学校で孤立しているのが現状だった」
そこで中手は思いを共有する組織の立ち上げを呼び掛け、5月に同ネットワークを設立。県内の保護者や首都圏の市民運動とも連携し、学校が目指すべき被ばく線量「年間1ミリシーベルト」を文科省から引き出す原動力となった。だが、親たちの不安が収まったわけではない。同ネットワークは今、自主避難に対する補償や、学校を一時的に県外に避難させる「サテライト疎開」の設置を行政に働き掛けている。「それでもいずれは福島に戻りたい」。それが真の願いだ。
「われわれの主張はだいぶ浸透してきた。しかし放射線リスクを軽視する“安全宣言キャンペーン”の余韻はまだ残っている」と中手。責任追及の矛先は政府や東京電力にとどまらず、被爆地長崎の専門家にも向けられた。(文中敬称略)