城臺美弥子さん(72)=長崎市三川町= 「焼けたロザリオ」 少年を自分に置き換えて
2009年刊の漫画「焼けたロザリオ」(聖母の騎士社刊)は、軍国主義や戦争、原爆が人間性を奪ってしまう怖さを、実在の少年の実体験を基に描いている。原爆投下直後、少年が、しがみついてくる男児を振り払って逃げ去ったり、「原爆病」にかかった知人を山に置き去りにする場面は胸に迫る。
城臺さんは6歳の時、爆心地から約2・4キロの立山の実家で被爆した。友達に誘われ、屋内から外に遊びに行こうとして祖母に呼び止められた瞬間、気付いたら畳の下敷きになっていた。実家が金比羅山の陰にあったことが幸いし、大きなけがはなかった。家族も全員無事。幼かったため、直後の被爆地の様子は詳しく知らない。
「自分の被爆体験は濃いものではない」。語り部を始めた当初、複雑な思いを抱いていたが、ある日、先輩教師から「爆心地だけが被爆地ではない」と指摘されて気付いた。自分も被爆者。そして「濃い体験」でないからこそ冷静に伝えられることがあるかもしれないと。
今、原爆投下の経緯を子どもたちに語り聞かせるとき、城臺さんは「原爆投下は仕方がなかったことなのかしら」と問い、結論を急がない。
「『焼けたロザリオ』を読んで、当時のことをイメージし、少年と自分を置き換えてみてほしい。そして戦争についてじっくり考えてほしい」。城臺さんは、子どもたちの想像力に期待している。