動きだす被ばく医療 長崎と福島の連帯 下

被ばくへの不安を抱えながら山下科長の講演に聞き入る住民=4月16日午後3時すぎ、福島県磐梯町民体育館

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動きだす被ばく医療 長崎と福島の連帯 下 被災者に正確な情報を 長期的な健康調査必要 広がる恐怖

2011/04/23 掲載

動きだす被ばく医療 長崎と福島の連帯 下

被ばくへの不安を抱えながら山下科長の講演に聞き入る住民=4月16日午後3時すぎ、福島県磐梯町民体育館

被災者に正確な情報を 長期的な健康調査必要 広がる恐怖

福島第1原発から20~30キロ圏の福島県南相馬市。11日の夕刻、降りだした雨は人通りの少ない街並みを暗く沈み込んだように印象付けた。歩道では年配女性がじっとりと濡れた髪を気にしながら自嘲気味につぶやいた。「放射能で死ぬかもね」

■風や地形に左右

国が定めた避難や屋内退避の区域は同心円。だが風や地形など自然がつくり出す放射線量の濃淡は、それをあざ笑うかのようにいびつな形で人々を翻弄(ほんろう)している。国は計画的避難区域を設けるなど対応に懸命だが、放射線量の値が何を意味するのか庶民にはなかなか分からない。「放射能が漂っている」。避難所で被災者の男性(63)が漏らした言葉は絶望感さえ含んでいた。
県自治会館(福島市)に設置した災害対策本部は、県域を2千カ所以上に区分した緊急放射線量調査の事務作業でごった返す。「せめて線量が低い地域だけでも安心してほしい」と県原子力安全対策課の担当者。被ばくの恐怖を和らげるには、今は正確な値を示すしか手だてはない。
原発から約90キロ離れた磐梯町の体育館。「私たちは普段から放射線と無縁ではないが、これまで測ってこなかった」。長崎大大学院医歯薬学総合研究科長の山下俊一(58)は16日、町民を前に講話した。チェルノブイリ原発事故後の調査や医療協力を進め、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーも務める。
通常でも微量の放射線を浴びていること、100ミリシーベルトの放射線を一度に浴びると発がんリスクが少し上がることを丁寧に話し、過大な不安を抱かないよう説いた。聞き入る町民たち。だがこうも付け加えた。「微量の放射性物質をとり続け、あるいは汚染された場所に居続けるとどうなるのかは分からない」。100ミリシーベルト以下のどこが安全と危険の境界か、長期的な健康への影響は-。それは長崎、広島の経験をもってしても答えはない。

■子どもらを守る

福島第1原発からの放射性物質の放出は続いている。被ばくへの危惧は拡大を続けるばかり。60年以上の被爆医療と研究の蓄積がある被爆地の役割が問われる。山下は継続的な環境と健康のモニタリング調査の必要性を訴える。例えば18歳以下を対象に行動パターンや移動経路などを聞き取り、被ばくの程度を試算したり、甲状腺の長期フォローアップを通じ健康管理を進める。もちろんそれは福島県立医科大付属病院が拠点となるのは間違いない。
「福島の未来の担い手である子どもたちを守る調査が必要だ」。山下はそう考えている。
(文中敬称略)