動きだす被ばく医療 長崎と福島の連帯 上

福島第1原発作業員の被ばく事故を想定し治療手順などを確認する医師や看護師ら=4月14日午後5時半、福島県立医科大付属病院の緊急被ばく医療棟

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動きだす被ばく医療 長崎と福島の連帯 上 原発災害支援 見えぬ恐怖 現場緊迫 長崎大の知識不可欠

2011/04/21 掲載

動きだす被ばく医療 長崎と福島の連帯 上

福島第1原発作業員の被ばく事故を想定し治療手順などを確認する医師や看護師ら=4月14日午後5時半、福島県立医科大付属病院の緊急被ばく医療棟

原発災害支援 見えぬ恐怖 現場緊迫 長崎大の知識不可欠

いまだ収束しない福島第1原発事故。放出が続く放射性物質の影響にあえぐ福島県では今、被爆地長崎との新たな連携が生まれている。原発作業員らへの緊急被ばく医療、放射線への過剰な不安の低減、将来的な人体影響と対応-。被ばくの地で、直面する難問に挑む長崎、福島の医療関係者らの姿を追った。

■治療か「除染」か

それは突然襲ってきた。机の上に置いたパソコンがガタガタと音を立てる。建物が右に左に大きく揺れるのが分かる。「これはでかいぞ」。誰かが発した言葉もうわずっていた。棚が倒れないよう体全体を使って支える医師。携帯電話の緊急地震速報が発する「ギュウ、ギュウ、ギュウ」というざらついた音が部屋のあちこちで鳴り響いた。

東日本大震災からちょうど1カ月を迎えた4月11日午後5時すぎ。震度6弱の余震が起きた。県立福島医科大付属病院(福島市)の緊急被ばく医療棟にある約60平方メートルの1室。長い揺れが収まると、長崎大学病院国際ヒバクシャ医療センター副センター長の大津留晶(53)と福島医大の救急医、長谷川有史(43)らは福島第1原発の作業員に被ばくした傷病者がいないか情報を集めた。

福島医大付属病院は県内の緊急被ばく医療の拠点だ。緊急被ばく医療では、患者の放射線汚染・被ばくの度合いに応じ治療と放射性物質を取り除く「除染」のどちらを優先するかなどの判断が求められる。医療班は放射線科の宍戸文男(61)を班長に福島医大の救急、放射線科の医師7人でつくり、原発作業員の被ばく事故に備える。長崎大は、医師や看護師ら3人態勢で被ばく医療の手法などを伝える形で支援している。宍戸は「私たちに緊急被ばく医療の知識はなかった。長崎大チームの存在は不可欠だ」と話す。

■緊急から恒常へ

パソコンの画面を見ていた長崎大学病院細胞療法部副部長の長井一浩(49)と長谷川の表情が一瞬にして曇った。12日午後に原発事故対応に当たる福島県のオフサイトセンターや放射線医学総合研究所(放医研、千葉市)などと開いたテレビ会議。「過労やストレスで脱水症状になる作業員が増えそうだ。みんな安眠できていない」。現場からの報告は”新たな事故の危険”を告げていた。

医療班は16日までに、原子炉建屋の水素爆発で外傷を負った作業員ら12人の治療に当たった。14日も重症被ばく患者が出たことを想定し治療手順を確認するなど、緊迫した日々は続く。

東京電力は原子炉の安定までに6~9カ月かかるとの見通しを明らかにしている。今も続く余震、気温上昇に伴い全身防護服を着た作業員の熱中症…。もはや誰もが想像しなかった「恒常」被ばく医療態勢に移りつつある。大津留は言う。「国難とも言える大災害だが、医療班は力を合わせ立ち向かおうとしている」