扉を開いて
 紙芝居で伝える平和 下

吉田さんの被爆体験をまとめた「私たちが伝える被爆体験」を演じる白鳥さん=長崎市興善町、同市立図書館

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扉を開いて 紙芝居で伝える平和 下 日本特有の文化 国境を超え共感生む

2010/08/07 掲載

扉を開いて
 紙芝居で伝える平和 下

吉田さんの被爆体験をまとめた「私たちが伝える被爆体験」を演じる白鳥さん=長崎市興善町、同市立図書館

日本特有の文化 国境を超え共感生む

長崎原爆の語り部で、今年4月に亡くなった被爆者、吉田勝二さんの被爆体験をまとめた紙芝居「私たちが伝える被爆体験」。8月1日、長崎市立図書館であった読み聞かせで、平和案内人、白鳥純子さん(61)の声に、会場は静まり返り、耳を傾けた。吉田さんもまた、紙芝居を愛した一人だった。

紙芝居は、吉田さんの被爆体験を聞いた長崎市立桜馬場中の生徒が2007年に制作。「自分に代わって役立ててほしい」と、吉田さんは自身の被爆体験の講話と併せ、紙芝居を披露するようになった。吉田さんの死後、紙芝居は白鳥さんをはじめ、多くの人によって演じられている。

5月に米・ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせて訪米し、吉田さんの紙芝居を現地の高校などで披露した高校生1万人署名活動実行委の林田光弘君(18)も、紙芝居の確かな効果を実感した。

現地の高校から寄せられた感想の中には「私はカツジになって(原爆を)体験した」という声もあったと言い、「紙芝居を通じて吉田さんの思いが伝わった」と林田君は力強く話す。

原爆をテーマに長崎市の被爆者、奥村アヤ子さんを描いた紙芝居「二度と」の作者で紙芝居作家の松井エイコさん(52)=東京=によると、紙芝居は観客に共感を生み出す効果がある。紙芝居の絵を一枚一枚抜くことで物語の世界が現実の空間に広がり、観客はその世界に共感、自分のものとしていく。この共感の中で平和への思いを伝えることができるという。

さらに松井さんは、日本特有の文化である紙芝居は、「平和を訴える手段として確実に世界に広がっている」と話す。ベトナムでは約100作品もの紙芝居が出版され、ベトナム戦争の悲惨さや平和の大切さを訴える手段としても活用されているという。

ドイツ・ミュンヘン国際青少年図書館が選んだ反戦・平和をテーマにした絵本80作品の中で、「二度と」は紙芝居としては唯一、選ばれている。「平和を伝えるには紙芝居こそふさわしいと考えられたからでは」と松井さん。

世代を超え、国境を超えて平和への思いが詰まった紙芝居が、少しずつ世界中の人々の心に希望の光をともし始めている。