扉を開いて
 紙芝居で伝える平和 上

奥村アヤ子さんの被爆体験をまとめた「ひとりぼっち」を演じる三田村さん=長崎市平和会館

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扉を開いて 紙芝居で伝える平和 上 最良の継承法 耳で聞き心で感じて

2010/08/05 掲載

扉を開いて
 紙芝居で伝える平和 上

奥村アヤ子さんの被爆体験をまとめた「ひとりぼっち」を演じる三田村さん=長崎市平和会館

最良の継承法 耳で聞き心で感じて

被爆から65年を迎えた今年、被爆者は年々高齢化し、「被爆体験の継承」が大きな課題となっている。そんな中、誰もが幼いころ目にした「紙芝居」が体験の継承や核兵器廃絶を訴えるための手段として注目されている。紙芝居の可能性と携わる人々の思いを探った。

7月下旬のある日、長崎市平野町の市平和会館の一室で、「紙しばい会」(山口政則代表)のメンバーが9月の発表会に向け、発表作品や日程の最終調整をしていた。「焼き場に立つ少年」、「髪留めがくれた命」-。机には原爆の悲惨さや平和の大切さを訴える紙芝居が並ぶ。

紙しばい会は、被爆者や平和案内人8人でつくる自主グループ。「紙芝居を平和を訴える手法の一つにしよう」と、2007年に組織された。原爆の実相や被爆者の生き方をまとめた紙芝居を制作するほか、平和に関する紙芝居の収集を主な活動としている。

長崎原爆の語り部として平和を訴え続けた故堂尾みね子さんや原爆俳人、故松尾あつゆきさんなど、被爆者の苦悩や生き方を描いた同会の紙芝居は計15作品にのぼる。小中学校などに出向いて上演するほか、年に1回発表会も開いている。

「私たちは素人なので紙芝居は上手ではないが、耳で聞いて、心で感じてほしいといつも話している」。被爆者でメンバーの一人、三田村静子さん(68)はこう力を込める。三田村さんは、3歳の時に福田町で被爆。これまでに2回がんに侵され、さらに5月には39歳の娘をがんで亡くした。「原爆の影響だろうか」-。最愛の娘を失った心の傷が癒えることはない。

「当時、覚えているのは原爆の閃光(せんこう)と灰のようなものが落ちてきたということくらい」…。自身が語り部活動をすることは難しいが、絵を使って分かりやすく伝えられる紙芝居こそが最良の継承法と信じる。「このようなことが二度と起きないよう、(紙芝居を通じ)被爆者のことや核兵器の恐ろしさを訴えなければならない」と使命感に似た思いを口にする。

9月の発表会では、原爆で家族を亡くした被爆者、奥村アヤ子さんの体験をまとめた「ひとりぼっち」を演じる。「娘のためにも命の大切さを訴えていこう」とぽつりとつぶやいた。