「伝える側」 被爆地がまとまり声を
本紙は22日、日本政府が核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドと原子力協定を視野に調整作業に入っていることを報じた。被爆国がNPT枠外の実質的な核保有国に核の取り扱いで協力するという動きは看過できない事態。長崎原爆被災者協議会の山田拓民事務局長は「本来なら被爆地はまとまって声を上げるべきだ」と語る。
しかし、平和に関する被爆地での連携は十分ではないという指摘がある。NPT再検討会議に合わせて5月に訪米した長崎の原水禁、原水協、被団協などの団体や非政府組織(NGO)、長崎市は一部連携しながらも個々に活動を展開。総体として「被爆地の代表団」という位置付けはなかった。
「被爆地の諸団体が共同歩調をとれば大きな力になる」。片山明吉県原水協事務局長はそう語るが、主義主張の違いや過去の経緯もあり、簡単ではないという。
今月上旬、長崎大であった公開講座。舟越耿一長崎大教授は、訪米した被爆者の活動を米国メディアが報じなかった驚きを語り、こう続けた。「広島、長崎は世界の人々に届く平和のメッセージを語っているのか。私たちは日本や世界でも通用する平和教育や平和学を実践しているのか。真剣に検証してみるべきところが多々あるのではないか」
再検討会議での「約束」を破綻(はたん)させないために、被爆地は被爆の実相と反核の思想を世界にどう届けていけばいいのか。
日本非核宣言自治体協議会(会長・田上富久長崎市長)は、原爆の脅威を国内外へ草の根的に伝える活動を活発化させている。小スペースの「ミニミニ原爆展」セットの貸与では、説明文を9カ国語に翻訳し、活用を広く呼び掛ける。被爆関連DVDは全自治体に送付。長崎市は原爆展開催地と連携したり、在外邦人らとのネットワーク化を目指す。
民間でも多様な取り組みが進んでいる。普段は個別に活動する長崎の被爆者5団体は、重要な局面では共同声明を出す。山田事務局長は「被爆地が一体となって取り組む素地は広がっている」と希望を込める。
長崎大の公開講座では被爆地から発信する側としてのメディアも問題になった。出席した被爆者の山川剛さん(73)は、今年の長崎原爆の日の8月9日付朝刊を休刊する全国紙などに対し、同日付の発行を申し入れたが変更はないという。
「原爆の日当日に全国紙が発行しないのでは、自らが核問題はローカルと言っているようなものだ」。山川さんは報道機関の基本姿勢にも疑問を突き付ける。