浸透 在米2世 責務を自問
核兵器廃絶の鍵を握る米国。その国民に被爆の実相と反戦反核の願いをどう伝え、浸透させていくのか。新たな動きとして在米邦人、特に被爆2世の活動と被爆マリア像を携えてローマやニューヨークなどを平和巡礼したカトリック長崎大司教区の高見三明大司教の取り組みが挙げられる。
被爆者との交流会を催した九州出身の米国在住者組織「ニューヨークばってん会」。会員は約100人で、長崎出身は25人。被爆2世も複数含まれる。会長の山口猛さん(74)は長崎市で育ち、1964年に移住。3年前に会長に就任し、平和活動にも力を入れている。会員でマーケティング会社を経営する木下信義さん(49)は被爆2世だ。「原爆は人道的に許せない」という親の言葉を、自身が親になって理解できるようになったという。原爆正当化論がはびこる国で「2世の役割を感じる」と話す。
ニュージャージー在住の知代・レズバニさん(51)も被爆2世。母や親族が長崎で被爆し、がんで亡くなった。「母の死を無駄にしたくない」と語る。被爆後の旧浦上天主堂を撮影した写真家、高原至さん(86)と昨年、長崎で出会い、米国での写真展開催を目指している。
平和や核廃絶について熱心に語る被爆2世はほかにもいた。彼らは米国を愛しながら、被爆者と血のつながる者としての「責務」に向き合おうとし、今後も核問題へのアプローチを続ける考えだ。後日、レズバニさんから届いた電子メールにはこう記されていた。「息子2人に被爆3世なんだから、と初めて伝えました」
高見大司教は、平和巡礼で被爆マリア像の力を借り、信仰を切り口にして原爆の非人道性を海外の人の心の奥に届けようと試みた。ばってん会の交流会に参加した大司教は「私たちの主張を聞かない人も、神様の働きでかたくなな考えを少し柔らかくできるかもしれない。考えを崩すきっかけになれば」と話した。米国保守層にもカトリック信徒は多数いる。実際、像は注目を浴び、米国の信徒はミサなどで熱心に手を合わせた。
キリスト教徒は、プロテスタントなどを含めると世界人口の約3分の1に当たる約20億人と推定される。大司教は帰国報告会で、被爆マリア像を携えて米国各地をさらに巡礼する考えも示した。像が再び「大役」を果たす日は、そう遠くないかもしれない。
【編注】「高見三明大司教」の高は口が目の上と下の横棒なし