元長崎大学長 土山秀夫さん(85) 冷静に見詰めたい
前回(2005年)の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は失敗だった。今回はオバマ米大統領が打ち出した「核兵器なき世界」のスローガンに明るい希望が抱かれている。半面、過大に期待しすぎると外れたときの失望が大きいので、冷静に見詰める必要がある。
不安要因としてNPTの柱の一つ「原子力の平和利用」の問題が挙げられる。核保有国は(核弾頭開発疑惑の)イランを念頭に、原子力の平和利用について強い規制を掛けてくる可能性がある。
例えば、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長が提案した「核燃料バンク」は、兵器転用ができない低濃縮ウランを必要とする国に提供するという構想だ。しかし、これを会議で採択しようとすれば、発展途上国はNPT第4条(原子力の平和利用は奪い得ない権利)に対する著しい制約だとして猛反発が予想される。ここに一つの波乱要因があり、ほかの項目の合意事項にも影響を及ぼしかねない。
米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准できず、兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約に至っては交渉の糸口も見えない。その点も踏まえ、会議の行方を慎重に見守りたい。