カトリック信者 片岡ツヨさん(89) 恨んでも元に戻らない
被爆マリア像のお顔は黒く焦げていて私と同じ。私の受けた傷が足りないからマリア様の顔も焼けたのでは、と思ったこともある。
65年前。24歳だった。爆心地から1・4キロの三菱兵器大橋工場で、帳面処理や部品を組み立てたり、いろいろな仕事をしていた。偵察機が見えて軒下から一歩外に出た瞬間、被爆した。一緒にいたおばちゃんはやけどで亡くなった。母に「私の顔はどうなっている」と聞くと「大丈夫」とうそをついた。右手の親指と人さし指は今も曲がらない。左耳は被爆3日目から聞こえない。
元長崎市長の本島等さんとは今も気安く話す。本島さんは「つらかばってん、アメリカ人を恨んだりすんなよ」と言う。私は「死ぬごたったとよ。親せきが13人も死んで、腹が立って恨んだこともある。結婚もできず、死のうかと思ったこともある。でも私に与えられた神の掟(おきて)があるから、恨まない」と話した。いくら恨んでも元には戻らない。
経験したことは済んだことにしてもいい。でも、また戦争が起きたらどうしようかと思う。もっと平和運動をしなければ核廃絶は実現できない。今の体では祈ることしかできないけれど、先の時代の人に原爆だけは受けさせたくない。
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今月、核安全保障サミットなど米国を軸に立て続けに核をめぐる動きがあった。人類は核抑止論に縛られながらも、核兵器削減へと少しずつ向かいつつあるようにみえる。そして、約190カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)再検討会議が5月3日、米ニューヨークの国連本部で始まる。核軍縮、核不拡散などで価値ある「合意文書」を採択できるかが焦点。
多くの被爆者らが現地に渡り、被爆の実相を伝える。一方で、被爆地長崎から会議の行方を見守る人々もいる。そんな被爆者、関係者の思い、つぶやき、分析を各国代表が集まるNPT会議への「伝言」として聞いた。