原爆投下国へ
 NPT再検討会議に向けて 1

「核がある限り、人類は危険にさらされる」と語る谷口さん=長崎市岡町、長崎被災協

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原爆投下国へ NPT再検討会議に向けて 1 長崎原爆被災者協議会長 谷口稜曄さん(81) 実相の訴え「最後かも」

2010/04/01 掲載

原爆投下国へ
 NPT再検討会議に向けて 1

「核がある限り、人類は危険にさらされる」と語る谷口さん=長崎市岡町、長崎被災協

長崎原爆被災者協議会長 谷口稜曄さん(81) 実相の訴え「最後かも」

1985年9月、フランスのテレビ局の呼び掛けで渡仏。広島原爆投下機エノラゲイの元乗員や米国学者らと対談した。原爆開発に携わった物理学者、イジドール・ラビ博士がこう言った。「原爆の実験時、(爆心地から)20キロ地点で強い衝撃を受けた。日本の被爆者はよく生き残ったものだ」。広島の被爆者と一緒に声を荒らげた。「あなたたちは人々を虐殺し、苦しみを与え続ける核兵器を造った。科学者でありながら」。米国と原爆を生んだ科学と原爆そのものへの憎しみが噴き出したことを、今も鮮明に覚えている。

長崎原爆では45年末までに約7万4千人が死亡した。

16歳だった。自転車で郵便配達中、爆心から1・8キロの路上で被爆。吹き飛ばされ、背中などに重いやけどを負った。「肉が焼け、骨まで焼けた」。うつぶせのまま約1年半入院し、ケロイドの一部はがん化。今も痛み、うずく。

きつい体に耐え、海外に渡り、核の真の恐ろしさを訴えてきた。米国への恨みを超え、原爆が何をもたらしたかを伝えることが、核廃絶につながると信じたからだ。

だが、人類は途方もない量の核兵器を生み出してきた。地球上には、人類を幾度も破滅させることが可能な2万発以上の核弾頭があるとされる。大国はいまだに核抑止力を重視し、核の軍事転用の疑念をぬぐえない途上国の動きもある。「憤りを覚える状況」は続いている。

「核兵器なき世界」を掲げるオバマ米大統領の登場で、世界に一筋の光が差した。約190カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)再検討会議は5月、米ニューヨークの国連本部で開かれる。議題の柱は核軍縮、核不拡散、そして原子力の平和利用。「“平和利用”は地球温暖化防止を理由にしたごまかし。放射性廃棄物の処理方法さえ見いだせず、核拡散と表裏一体の一体何が平和利用なのか」。人類が核兵器を具体的に減らし始める歴史的転機をNPT会議に期待しながら、核に頼ることが前提の会議に少なからぬ疑問も感じている。

「核こそが人類を危険にさらすことを日本は被爆国として世界に主張すべきだ。まずは政府が非核三原則を法制化し、立場を明確にする必要があるのだが…」。自国へのいら立ちも抱え、NPT会議に合わせて月末、渡米する。「年老いて残り時間はわずか。米国で被爆の実相を伝えるのはこれが最後かもしれない」

◇ ◇

米ロは3月、第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新核軍縮条約で合意し、4月に調印の見通し。この流れを加速させたい被爆者らは、核と核兵器の取り扱いを方向づけるNPT再検討会議をにらみ「原爆投下国」へと向かう。被爆の原体験と渡米の決意を取材した。