元長崎大学長 土山秀夫氏(84) 「地球市民集会ナガサキ」を主催する実行委員会の委員長 具体的行動促すアピールを
日本、オーストラリア両政府の呼び掛けで(旧自民政権時代の2008年に)発足した賢人会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」が昨年12月、最終報告書をまとめた。評価できる点があった一方で、失望もした。それは、オーストラリア側の委員が、(敵の核攻撃まで核を使わない)「核先制不使用」政策を核保有国が早期に宣言するよう求めたのに対し、日本側の委員の抵抗で報告書では「25年までに」と先延ばしになったことだ。
(核の軍事的役割を低下させる先制不使用政策を早期に宣言させることへの)抵抗は、核抑止政策への日本の信仰の強さを物語っている。オーストラリアは、被爆国と組んで思い切った提言をすれば核保有国に与えるインパクトも大きいと期待して、賢人会議の立ち上げを日本に呼び掛けたのだろうが、思惑が外れた格好になった。
日本側の委員の発言に影響を与えたのは圧倒的に旧自民政権時代の守旧派の意向だろうが、民主新政権も、核や安保政策について党内は一枚岩になっていない。核抑止を支持する派もおり、米国の「核の傘」からの脱却、北東アジア非核兵器地帯構想実現に向けた具体的行動を踏み出すまでに、まだ曲折があるだろう。
一方、オバマ米大統領のプラハ演説後の国際情勢を見ると、昨年9月に国連安保理が「核なき世界」を目指すという決議を全会一致で採択した。だが、まだ核保有国の動きは非常に消極的だ。米ロの第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約を両国が早く締結できれば、ほかの保有国への手本になるだろう。これが一つの大きなポイントだ。
06年以来、4回目となる今度の「核兵器廃絶-地球市民集会ナガサキ」はオバマ大統領が誕生して初めて、そして5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を控えたタイミングでの開催になる。各地にいろいろな国際会議はあるが、被爆地で開催する非政府組織(NGO)の国際会議は、やはり各国に与えるインパクトが違う。しかも実行委メンバーに行政は入っても、企画立案から運営まで市民側に任せるスタイルは、外務省も言うように日本で唯一と考えていい。(再検討会議のある)今年は今後を占う年になる。「長崎ならでは」の集会から、核廃絶に向けた世論喚起だけでなく、各国にも具体的に動いてもらうよう、きちんとしたアピールを発信したい。
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第4回「核兵器廃絶-地球市民集会ナガサキ」は6~8日、長崎原爆資料館、長崎市平和会館を主会場に分科会や全体会議、関連行事を開く。傍聴や関連行事への参加は無料(一部を除く)。
つちやま・ひでお 長崎市生まれ。長崎で入市被爆。長崎大医学部長を経て、1988年から4年間、長崎大学長。長崎市長が平和祈念式典で読み上げる平和宣言の起草委員、世界平和アピール七人委員会の委員。