元いらんばい! 福岡オリンピックの会事務局長 脇 義重氏(64) 崇高な理念だけで動かず 予算が多額ならやめても
-五輪招致表明についての率直な感想を。
核兵器廃絶を求める被爆地の市長だからこそ言える発言。オバマ米大統領の核兵器をめぐる政策を後押しし、核戦争を止める役割を果たしたいとの気持ちを、秋葉忠利広島市長の発言の中に読み取ることができた。
-実現可能か。
市民が五輪のために予算を投じることを認めるかどうか、財政事情はどうなっているのか、街並みはどうか…。福岡市では国内候補になるだけでも多くの予算が飛んだ。開催期間中だけでなく、競技施設の新設やその後の維持管理など開催前後のことを考えると、オリンピックは地方都市で開ける規模ではないし、過去にも例がない。賛否を言える立場にないが、自分がもし広島、長崎両市民だったら、もう少し考えてほしいと主張するかもしれない。つまり、いろんな事実を明らかにし、民意をよく調べてほしいと。
-福岡市が目指した2016年夏季五輪招致に対する反対運動を展開した。その理由と概要を。
当初の案では、われわれが反対している博多湾内の人工島事業の現場に選手村を造る計画があった。これは由々しき事態だと。決定的なのは財源問題。当時、福岡市の借金は膨れ上がり、市債発行残高は約2兆7千億円に達していた。莫大(ばくだい)な開催費用のしわ寄せは、本来優先されるべき教育や福祉など市民生活の現場にくる。民意が反映されていないばかりか、政治的思惑がからんだ開発優先主義で街並みが破壊されてしまうのではないか、そんなさまざまな危機感から市民団体が立ち上がった。
集会、署名、要望、街角投票、IOC・JOCへの要請行動…、やれることは何でもやった。IOCの一番大きな判断基準は地元がどれくらい歓迎しているかだ。結果的に落選したが、少なくともわれわれの運動の有無で、(当落の)結論に大きな違いがあったと考えている。
-反対運動を振り返っての教訓と両市へのアドバイスがあれば。
開催地決定に関し、今の五輪は崇高な理念だけでは決して動かない。落選すれば、ただ金を使っただけということになる。両市長の開催理念は理解できるが、今後、多額の予算が必要だとの結論に達すれば堂々とやめてもいいのではないか。誰も文句は言わないだろう。ここで五輪を離れ、平和のために次なる一手を考えた方が現実的だ。平和会議を開くなど有効な手段はあると思う。(聞き手は福岡支社・向井真樹)
【略歴】わき・よししげ 福岡市在住。京都大農学部卒。全国農業協同組合連合会(全農)などを経て、自動車電装関連会社を定年退職。博多湾人工島反対運動などを展開する市民団体「博多湾会議」事務局長。干潟保全運動や博多港の軍事利用化に反対する市民運動にも取り組む。