全国被爆二世団体連絡協議会前会長 平野伸人氏(62) 荒唐無稽 理念も疑問 課題、やるべきことある
-長崎市が広島市との2020年夏季オリンピックの共同招致案を打ち出した。どう思うか。
荒唐無稽(むけい)だ。開催経費や施設、警備の問題など、どれも受け入れ能力を超えている。無理に施設を造ったとしても、長崎の人口や財政規模では五輪後の有効活用は望めず、維持管理に大きな負担を背負うことになる。招致活動だけでも何年もかかり、相当なお金も労力も使う。長崎にそんな余力はない。
-両市長は五輪を通じた被爆地からの核廃絶、平和のアピールをうたっている。核廃絶と五輪は結び付くと考えるか。
メダルの数にこだわったり、国威発揚に利用されている今の五輪の状況を見ると、必ずしもそうは思わない。そうした騒がしい雰囲気の中で、果たして平和の発信ができるだろうか。(選手やスポーツ観戦に来た人の)どれだけが原爆のことを学ぶだろうか。その「効果」のためにどれだけの費用を投じなければならないか。(負担分散のため)周辺都市にも声を掛けると言うが、それでは(両市長が唱える被爆地五輪の意義とも)矛盾する。派手なものに飛び付いた感がぬぐえず、理念の面からも疑問だ。国際会議の招致など平和を発信する方法は、ほかにいろいろある。
-被爆者援護、核廃絶活動に取り組む一人として、田上市長の平和行政をどう評価するか。
関係者との面会で市長はよく「できることからやりたい」「これを第一歩にしたい」と言うが、その後が見えない。例えば、(被爆者の子どもに当たる)被爆2世は放射線の遺伝的影響が解明されず、国の援護対策もない中で健康への不安が増大しているが、行政はその人数さえ把握していない。市独自に実態調査をしてほしいと求めても、「お金がない」「国の責任」と逃げている。身近にやれること、やるべきことがあるのに、それに手を付けないまま五輪と言われても、違和感を覚える。
-長崎市に求めることは何か。
(市民や行政などで実行委をつくり)長崎で開いている国際会議「核兵器廃絶-地球市民集会ナガサキ」のような取り組みを育ててほしいし、被爆者援護の残された課題解決のために努力してほしい。市民生活の中にもいろんな課題がある。長崎市がやるべきことは、ほかにたくさんある。
【略歴】ひらの・のぶひと 長崎市在住。元小学校教諭。高校生の時、幼なじみが白血病で亡くなったのをきっかけに被爆2世の運動を始める。在外被爆者、被爆体験者など数多くの裁判を手掛ける一方、高校生1万人署名活動など若い世代の育成に当たっている。県被爆二世教職員の会会長。