県平和運動センター被爆者連絡協議会議長 川野浩一氏(69) 官主導の実態解明へ 「非核」の国是崩れ自治体の変化も注目
〈密約解明の意義をどう考えるか〉
「核持ち込み」に関する密約内容を知らされていたのは歴代の全首相、外相ではなく、官僚側の判断で(外務省が信用した)一部の首相、外相にだけ伝えていた、とする元外務次官の証言が報道された。政治判断の主導権を(国民の代表の)政治家ではなく、官僚が握っていることになる。
被爆者援護についても同じことがいえる。官僚によって被爆者援護法の立法の精神がゆがめられてきた。救済には経費がかかるから、被爆地域はできるだけ狭く、被爆者数はできるだけ少なく、という意図を感じる。(長崎の爆心地から同じ半径12キロで原爆に遭いながら、被爆者と認められていない)被爆体験者の問題は最たるものだと思う。(2003年の廃止まで在外被爆者を切り捨てる根拠とされた)旧厚生省の局長通達(402号通達)もそうだ。そうした意味で、密約の調査・解明は官僚主導からの脱却にもつながる。
北朝鮮や中国の核の脅威をあおり立てて、日本の核武装や、(米軍核搭載艦船の日本への通過・寄港を公式に認めて、非核三原則から『持ち込ませず』を外す)非核二原則を主張する声もあるが、(軍事のパワーバランスは)こちらが高くすると、必ず相手も高くする。それでは世界は核だらけ。きりがない。
鳩山政権には、政府や外務省が一貫して否定してきた密約の実態を明らかにした上で、オバマ大統領の米国とともに核廃絶の先頭に立つという証し、出発点として、非核三原則の法制化を実現してほしい。(一連の対応が)新政権の安全保障・外交政策の試金石になるだろう。
自治体の考えも変わらなければならない。例えば、米軍艦船の長崎寄港に(被爆者や平和団体などが)反対し、港湾管理者の県に対して、寄港艦船には神戸市のように核不搭載の証明書提出を求める「非核神戸方式」の導入を要請しているが、県は「非核三原則は国是として守られている」などと否定的だ。政府の見解に逆らえず、顔色をうかがう姿勢に終始している。だが、(元外務次官らの証言で)国是として守られているという根拠が崩れてきた。今後の対応が注目される。
また、(地域から核なき世界の実現をうたう)「非核宣言」をした自治体(本県は全自治体が宣言済み)のうち、米国の臨界前核実験に対しても、どれだけが実際に抗議文を出してきただろうか。自治体が変われば、私たちも自治体を交えた運動ができるし、それは平和政策で地方から国を支えていくことになる。そうした動きを後押ししたい。
【略歴】かわの・こういち 爆心地から3.1キロの長崎市本紙屋町(今の麹屋町付近)で被爆。元県職員。連合長崎会長などを務めた。4月から原水爆禁止日本国民会議(原水禁)議長。
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鳩山新政権は米軍核搭載艦船の日本通過・寄港を黙認する日米両政府の「核密約」などを解明するため、外務省に調査チームを発足させた。密約問題や調査の意義をどう考えるか、新政権に何を求めるかなどについて被爆者や識者に聞いた。