2009語り継ぐナガサキ
 核なき世界へ 5(完)

7月、福岡市内で開いた個展で、来場者に語りかける西山。反核・平和を題材にした漫画が大半を占める

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2009語り継ぐナガサキ 核なき世界へ 5(完) 西山進(にしやま・すすむ) 1こまに万感込めて 漫画人生支えた被爆体験

2009/07/31 掲載

2009語り継ぐナガサキ
 核なき世界へ 5(完)

7月、福岡市内で開いた個展で、来場者に語りかける西山。反核・平和を題材にした漫画が大半を占める

西山進(にしやま・すすむ) 1こまに万感込めて 漫画人生支えた被爆体験

漫画家、西山進(81)=福岡市南区=が描く「1こま漫画」の絵はほのぼのとして温かい。だがその内容は鋭く、厳しい。過去の忌まわしい記憶から生み出される心の叫びなのか。核兵器や戦争を題材にした政治風刺が多く、焦土と化した長崎の光景もある。「『あの日』が頭から離れず、つい(作品が)反核・平和に流れてしまう。みんな長崎のせいよ」。西山は笑う。

原爆ドーム(広島)に突き刺さった核ミサイルと、地上に折り重なる無数の遺体。原爆犠牲者を冒涜(ぼうとく)する「核武装論者」への怒りを込めた一作だ。米軍の戦車に竹やり1本で立ち向かう女性を描いた作品のタイトルは「これで勝つつもりだった!?」。お気に入りは、別々のいかだで広大な海を漂う小泉元首相と北朝鮮の金正日総書記を描いた「二人ぼっち」。暴走と孤立がテーマのこの風刺漫画は3年前、東京であった漫画展で人気投票3位に輝いた。

すべての思いを1枚の漫画に込める。デビュー以来、30年以上続くライフワークだ。「漫画は簡潔に言いたいことが言える。子どもやお年寄りにも理解しやすい」。難しい文章や複雑な政治問題も、西山の手にかかれば明快だ。

幼少時代からの夢だった漫画家デビューは、50歳を目前にした1975年。「遅咲き」の理由は、戦争漬けだった少年時代の社会背景と長崎原爆にある。しかし、皮肉にもその原爆が思想体系の原点となり、西山の漫画人生を支えた。掲載依頼は労働組合系の機関紙などが次第に増え、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が発行している被団協新聞の長期連載「おり鶴さん」は30年を超えた。

大分県出身。開戦翌年の42年、西山は、父の勧めで三菱長崎造船所の養成工になった。3年後の夏、爆心地から約3・5キロの工場内で被爆。当時17歳。パンパンに膨れ上がった遺体、黒焦げの母子、川面に浮かんだピンクの皮膚-。救援作業で入った浦上の地獄絵が脳裏に焼き付いて離れない。

西山はこの夏、核兵器廃絶の炎を右手に掲げるオバマ大統領を描いた。タイトルは「試されるオバマさん」。「来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を広島、長崎で開いたらどうか。オバマさんは“小浜温泉”でゆっくりすればいい」。課題は山積みだが、核廃絶はきっとできる-。あの日以来、胸に秘めてきたその信念が最近、確信に変わりつつある。(敬称略)