基準改定 「条件付き」募る不信
原爆症の認定基準をめぐり、甲状腺機能低下症と慢性肝炎・肝硬変が新たに積極認定の対象疾病に加えられた。5月の原爆症認定集団訴訟の東京高裁判決を受けて国が上告断念し、基準緩和に結び付いた。だが「放射線の起因性」が認定条件に付けられ、課題はなお残る。被爆者らが求める全面救済は実現するのか。険しい道のりを検証する。
趣旨に反する
5月28日に出された原爆症認定集団訴訟の東京高裁判決。2008年4月に導入された認定の新基準では枠外だった肝硬変と甲状腺機能低下症が原爆症の対象疾病と認められ、原告団は「画期的」と喜んだ。
高裁判決は、認定の在り方についても、こう踏み込んだ。「厳密な、学問的な意味での真偽の見極めでなく、あるがままの状態を判断の前提とする」
それから1カ月足らずの今月22日。医師や研究者らでつくる厚生労働省の被爆者医療分科会は、慢性肝炎などを積極認定するよう基準改定したが、これには「放射線に起因すると認められること」と科学的知見を求める条件が付けられた。
「高裁判決の趣旨に反する。分科会の委員は科学者であると同時に、積極認定の基準をつくった人たちなのに」。全国弁護団の宮原哲朗事務局長は憤る。
昨年の基準改定では、がんや白血病など5疾病について積極認定するよう方針転換。その結果、08年度の認定は約2700件で、07年度の約23倍に伸びた。
だが、実態を見れば認定のほとんどはがん。5疾病のうち、今回と同様「放射線の起因性」を求められる心筋梗塞(こうそく)などは、101件の答申のうち認定は44件にとどまる。
波及へ歯止め
山本英典全国原告団長(76)が思い起こすのは、長崎市の松谷英子さん(67)が00年、最高裁判決で勝訴した原爆症認定訴訟だ。最高裁に認定基準の「機械的運用」を批判された国は翌年、放射線の影響を数値化した「原因確率」に基づく認定を決めた。「国は敗訴したら、認定の範囲を原告以外に波及させないよう手を打ってくる」
今回、認定対象に加わった疾病は、それが放射線に起因すると判断するのは「専門家でも極めて困難か、そもそも判断の尺度が存在しない」と山本原告団長。「その結果、認定は保留の一途になりかねない。そのために、あえて科学的知見という条件を持ち出したかにも思える」
長崎で被爆し、東京高裁判決で原爆症と認定された西本治子さん(71)=東京都三鷹市=は、甲状腺機能低下症で長年苦しんできた。「被爆者が苦しんでいるのは、がんだけじゃないのに」
高裁判決を受け、認定基準は緩和されたものの、認定審査の実態がどれほど変わるのか、疑問を禁じ得ない。「裁判を起こさない限り、原爆症と認められないのだろうか」。国への不信感が募る。