温度差 「核の傘」で自己矛盾
六日、ニューヨークの国連本部。国連事務次長のセルジオ・ドゥアルテ軍縮担当上級代表に、長崎市長の田上富久、広島市長の秋葉忠利ら非政府組織(NGO)「平和市長会議」の代表団が、来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で「ヒロシマ・ナガサキ議定書」が採択されるよう協力を求めた。
市長会議が提唱する議定書は二〇二〇年までの核廃絶を目標に、各国に廃絶に向けた具体的な取り組みを提案している。テーブルの上には、約三十七万人分の賛同署名が段ボール箱で積まれていた。
核兵器の拡散を防ぎ、核保有国に核軍縮を義務付けたNPTの運用を加盟国が話し合う五年に一度の再検討会議が、来年五月に迫る。ブッシュ米政権下での前回再検討会議は、米国を中心とする核保有国と非保有国が対立し、決裂。この時の議長がドゥアルテだった。議定書に笑顔で賛意を示すドゥアルテの表情には、オバマ米大統領のプラハ演説を機とした核軍縮・廃絶への機運の高まりに期待感がにじんでいた。
核保有国など百三十四カ国・地域の二千八百七十都市が加盟(一日現在)する市長会議は、今回のNPT準備委員会に集まった各国代表らにも同様の要請を重ねた。「反応は良かった」(秋葉)が、微妙な温度差を感じさせる場面もあった。ほかならぬ、日本政府の元を訪ねたときだった。
四日、国連日本代表部。「これまで国レベルの努力が十分されてこなかった」。苦言を呈する秋葉に、応対した柴山昌彦外務政務官は議定書を「斬新な試み」としながらも、「各国がどう取り扱うか見守りたい」と答えるにとどめた。
米国の「核の傘」の下で核廃絶を訴える自己矛盾を抱える日本。核をめぐる今回の機運の高まりも、オバマ政権下の米国発であり、被爆国日本ではなかった。市民団体「ピースデポ」(横浜市)特別顧問の梅林宏道は「日本が(国際社会で)リーダーシップを発揮するには、核に頼らない安全保障政策を示す必要がある」と話し、「核の傘」から脱却して核政策を転換することが被爆国の「道義的責任」だと指摘する。
梅林らが脱却の手段として唱える「北東アジア非核兵器地帯」の創設については、田上が昨年八月の平和祈念式典で読み上げた平和宣言にも政府への要望として盛り込まれた。日本、韓国、北朝鮮が核兵器の生産、保有などを禁止することに加え、核保有国がこれらの国へ核攻撃しないことを誓約することでつくり出される「核のない地帯」。こうした非核地帯は世界に五地帯(うち一つは条約未発効)あるが、被爆地の声に政府が動きだす気配は見えない。
一方の平和市長会議。加盟数は増加しているが、本県では県のほか佐世保など一市二町が「今の段階で必要ない」などとして未加盟のままだ。「温度差」は被爆県の中にもある。(文中敬称略)