長崎市長 田上富久氏 政府対応に不信感
〈被爆地長崎の市長として今回の日本政府の対応をどうとらえているのか〉
被爆者をはじめとする市民が核兵器廃絶を現実のものにしようと取り組んでいる中で、政府も当然、廃絶に向けて同じベクトルで進んでいると思っていた。それが、特別扱いすることに慎重な国があり、唯一の被爆国であるにもかかわらず、日本政府は反対という立場を取らずに承認してしまった。政府が今後、本当に私たちと一緒に核をなくすという動きをしてくれるのかという部分が揺らいだことはショックで、不信感を持たざるを得ない。
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十六日に吉原孝市議会議長や広島市の秋葉忠利市長とともに官邸と外務省を訪れた。承認についての説明を受けたが、到底納得できる内容ではなかった。政府は「ぎりぎりの選択だった」としながら、承認はインドが核実験を凍結すると明確に表明したことや、今後の経済発展が予想されるインドの気候変動に与える影響を考慮して原子力の平和利用が必要なことなどプラス面だけを強調した。
インドの核実験凍結が明文化されなかったことや、気候変動や環境への影響を考慮する米国が京都議定書を批准していないことなど、マイナス点や矛盾点への説明は一切なく残念だ。
特に問題なのは、核兵器廃絶に向けて国際社会が英知を集め、ようやく確立できた核拡散防止条約(NPT)を、今回の例外扱いが空洞化、形骸(けいがい)化させるのではないかとの懸念を解消する説明がまったくなかった点だ。
このままでは、政府がNPT体制を軽視しているのではないかとの懸念はぬぐい去ることはできない。唯一の被爆国である日本政府がそうであってはならない。今回の承認で北朝鮮やイスラエルなどが同じようなことを求めてくることも考えられる。政府には毅然(きぜん)とした態度で被爆国としての使命と役割を果たすことを強く求めたい。
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今回のような政府間合意がなされてしまうことをどう防ぎ、どうやって政府を動かすのか。それには自治体同士の連携や市民の連帯が必要。非政府組織(NGO)や政府を取り巻く人たちがつながり、核兵器を拡散させぬよう包囲網を敷いていく形が有効だ。広島市と連携し、(各国に核兵器廃絶に向けた具体的な道筋を示した)ヒロシマ・ナガサキ議定書の賛同を世界の都市に求め、廃絶の声を集約していきたい。
世界の都市が足並みをそろえれば、核廃絶は夢ではなくなる。そういう意味でも来年、長崎市である平和市長会議の総会を、世界へ核兵器廃絶の声を広げる契機にしたい。