署名活動の力信じる 若者が広げる共感の輪
「被爆地からの声は、被災地にとって大きな励みになります」。七月二十一日、長崎市中心街の浜市アーケード。高校生一万人署名活動実行委のメンバーは行き交う人々に大声で呼び掛けた。
首から下げているのは、いつもの署名用紙ではなくて募金箱。新潟県中越沖地震の被災者救援の募金を呼び掛けようと街頭に立った。
二時間半の活動で集まったのは三十万円以上に上った。高校生平和大使の始動から十年目。核兵器廃絶に賛同を呼び掛けてきた若者たちは、被災地支援運動などでも共感の輪を広げている。
だが、必ずしも呼び掛けに応じてもらえるとは限らない。
「平和で当たり前。興味はない」「勉強と部活で忙しくて、平和活動なんてできない」。実行委による核兵器廃絶の署名活動中、その前を素通りした高校生からは、こんな本音が漏れる。
中学時代から署名活動に携わり、八代目の平和大使を務めた山田詩郎さん(21)=筑波大二年=は、「素通り」も普通の市民の反応だと思っている。「大半の人は、核廃絶の問題を日々考えたりしないのでは。私自身も、国連に署名を届けてすぐに世界が変わるなどとは思わない」
ただ、署名活動という「気持ちを形に表す行動」の持つ力は信じる。
「その気持ちが国連に届けられることで、署名した人は自分が世界とつながっている意識を持てるのでは。署名を募る高校生の姿を見てもらうだけでも構わない。それが家族や友達との話題になり、平和について話すきっかけになれば」。少しずつでも共感が広がるよう望む。
平和大使の始動十年目記念パーティーが開かれた六月三十日。この日、久間章生防衛相(後に辞任)が原爆投下を容認するような発言をし、出席者の表情は複雑だった。
その一人に、昨年度の平和大使の石井美保さん(19)=活水大一年=がいた。「私たちの行動をよく知っているはずの大臣の発言。『なぜ』という気持ちになった」という。「でも、ほかの閣僚も、多くの市民も同じように考えているのかも。これまでの活動を振り返るいい機会にもなった」
壇上では、新しい平和大使が抱負を述べた。「一つ一つの署名の力は小さいけど、活動を積み重ねれば大きな力になる」。そう考える石井さんは、後輩たちに期待を託しながらバトンを渡した。