会社員 津田麻友子さん 心の中で息づく思い
高校を卒業した昨年春、津田麻友子さん(19)は、趣味のお菓子作りに磨きをかけるため県内の短大に入学した。念願だった初めての一人暮らし。キャンパスライフを満喫しようと思った。平和活動のことは頭になかった。
夏休み。高校生一万人署名活動の写真展のスタッフをしてほしいと声が掛かり、会場の長崎市内まで出掛けていった。高校時代に一緒に活動した懐かしい顔ぶれが並んでいた。活動を支えている小学校教諭の平野伸人さん(59)とも久しぶりに再会した。
写真展の期間中、韓国人被爆者の講話を聞く機会があった。そこで、平野さんから耳を疑うような話を聞いた。
高校時代に訪れたフィリピンのスラム街が火事になったという。ショックだった。すぐさま会場にいた高校生から募金を集め、フィリピンに送金した。
平和活動から遠ざかっていても、鉛筆を贈ったときに「にこっ」とほほ笑んだフィリピンの子どもたちの顔だけは忘れていなかった。
大学は初めのころは自由で快適だった。しかし、友人関係に悩むようになり、授業も菓子作りの実習は少なく期待外れ。大学に通う必要性を感じられず、九月に退学届を出した。
実家のある大村に戻り、携帯電話ショップに就職した。午前九時に出勤し、仕事が終わるのは午後八時ごろ。帰宅して夕食を取り、ゆっくりくつろいでから床に就く。毎日が同じことの繰り返しだ。
「仕事で長期休暇を取れるようになったら、もう一度フィリピンに行って、子どもたちの笑顔に会いたい」。その思いは強い。「交流を通してお互いが元気になる。そうした積み重ねが平和につながる」との信念があるからだ。
だが、いつ実現できるか分からない。「仕事は続けたいですね。それから結婚して幸せな家庭を築いて、子どもができたらやっぱりフィリピンに連れて行きたいな」。その日が来ることを願っている。
後輩たちの署名活動が気になることもあるが、仕事があるため遠くから見守ることしかできない。そんな今でも、心の中では「平和」が息づいている。フィリピンの子どもたちの「笑顔」という平和が―。