新たな使命 全国に“平和の種”まく
「毎年行くたびに、私たちを迎える会議室が広くなるんですよ」
八月十八日、高校生平和大使の旅に同行した被爆者の川副忠子さん(61)は、国連欧州本部(スイス・ジュネーブ)の一室に入った後、こうつぶやいた。今年で三回目の訪問。国連側の対応の変化を平和大使への期待と感じる。
長崎の高校生たちが始めた「高校生一万人署名活動」は全国へ、世界へ広がり、五回目の署名総数は過去最多の九万一千百七十八を記録した。
しかし、延べ約二十三万超の署名簿を国連欧州本部に届けたにもかかわらず、世界には約三万発の核弾頭が存在するとされる。北朝鮮などの核開発疑惑、核の闇市場における拡散の危機、核拡散防止条約(NPT)再検討会議は何の成果もなかった。
川副さんは一歳で被爆、当時の記憶はまったくない。昨年からかかわった被爆証言集の編集作業で、口を閉ざす人や爆死した学友への思いから被爆者健康手帳を取得しない人と出会った。被爆者の心の傷の深さと体験を語り継ぐ難しさをあらためて痛感した。
だが、国連欧州本部軍縮局ジュネーブ部長のエンリケ・ロマンモレー氏を前に、川副さんは五人の平和大使と、同行の六人の高校生使節団を誇らしげに紹介した。「私は少しだけ希望が見えています。それがここにいる若者たちです」
「反核平和を求めて、若い人たちが立ち上がっている。私たち大人は、未来を生きる彼らが生きやすい世界になるように、残された時間を核のない世界をつくるために努力したい」。川副さんは若い世代と手を取り合い、行動できる今の時代がうれしい。
今回の旅は、平和大使だけでなく、神奈川、京都、福岡、宮崎から来た六人の高校生にも頼もしさを感じた。「毎年、出発前と後で、大使の表情が、がらりと変わるんです。今年は県外から来た高校生たちが日に日に成長する姿がはっきり分かりました。若い人たちに未来を託せると実感できた」。川副さんは十一人の高校生が“平和の種”を全国にまいてくれる、そう確信した。
祖父母の被爆体験を語り継ぐ使命を抱いていた平和大使の平湯あゆみさん(17)=活水高三年=は、旅を通してさらにもう一つの使命をはっきり意識するようになった。
「日本政府の姿勢を変えたい」
世界から長崎を見詰めた。そして、目の前の日本政府が被爆地の思いに冷淡だとはっきり気付いた。「難しいかもしれないけど、少しずつ具体的な方法を見つけたい」。被爆者の思いを胸に、一歩ずつ進む自らの未来を思い描く。