未来を託して
 =高校生一万人署名の軌跡= 4

裏方として活動をまとめ、署名簿を高校生平和大使に託す中村和人君(右から2人目)=8月11日、長崎市内

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未来を託して =高校生一万人署名の軌跡= 4 確かな成長 受け継がれた“心”のたすき

2005/09/17 掲載

未来を託して
 =高校生一万人署名の軌跡= 4

裏方として活動をまとめ、署名簿を高校生平和大使に託す中村和人君(右から2人目)=8月11日、長崎市内

確かな成長 受け継がれた“心”のたすき

「誰のものでもない、皆さんの活動なのですから」

七月末、長崎市内のある会議室。高校生一万人署名活動実行委のメンバーに、小学校教諭で支援者の平野伸人さん(58)は突き放したような調子でそう言った。

既に目標に掲げた六万人の七割近く、約四万人分の署名を集めていた。だが平野さんは、十数人でスタートした四年前と比べ、四十―五十人の”大所帯”になったことで人任せになりがちなメンバーが気になった。平野さんの投げ掛けた言葉は高校生の自覚を促し、被爆六十年の八月を迎えるための檄(げき)でもあった。

八月に入ると、メンバーたちは広島、長崎で開かれる各種平和団体の集会会場で署名集めに奔走した。六十年目の八月九日も、いつものように長崎駅前の広場で声を張り上げた。

「やったー」。八月十一日の集約集会。署名総数が発表されると、会場は大きな歓声と拍手に沸き返った。目標を大きく上回る八万六百二十二人。わずか十日前の二倍以上だ。ガッツポーズや抱き合う姿には達成感が満ちあふれていた。

「うわっ、重い」。高校生平和大使の一人、山田詩郎君(19)=長崎東高三年=は、分厚い署名用紙を渡された瞬間、思わず口に出した。「みんなの平和への思いが詰まっているんですね」

集約集会には、昨年の平和大使だった津田麻友子さん(18)=短大一年=が姿を見せた。津田さんは真っ先に後輩の中村和人君(18)=長崎総科大付属高三年=の成長をたたえた。「後ろからちょこちょこついてくる感じだったのに、今では集会の司会をしたり、みんなの先頭を歩いている。目を疑いました」

数少ない最上級生の男子として今年の活動を引っ張った中村君。「昨年、津田さんたちがメンバーをまとめるのに苦労していたことを自分がその立場になって初めて知りました」。署名活動の”心”のたすきは先輩から後輩へと確かに受け継がれていた。

「僕は裏方」。中村君はそう思っている。署名用紙やペン、用紙を挟む画板、横断幕…。街頭署名に必要な道具を収めたスーツケースを運んだり、署名を数えるのが「自分の役目」という。

「表に立ってマイクを握るのは苦手。みんなを支える仕事が好きなんです」。中村君は三年間、自分の”得意分野”で活動をやり遂げた。大学進学後も後輩たちをサポートしようと決めている。もちろん「裏方」としてだ。