目標6万人 はるか遠くへの道始まる
核兵器廃絶を求める被爆地長崎の声を世界に届ける「高校生一万人署名活動」。被爆六十年の今夏、目標を上回る九万人もの署名が寄せられ、「高校生平和大使」が八月末、国連欧州本部(スイス・ジュネーブ)に膨大な署名簿を届けた。核兵器廃絶を求める平和活動に新風を吹き込み、世界の高校生にもその輪を広げつつある中、これまでの軌跡を追い、今後の課題を探る。
「目標は被爆六十年に合わせ、六万人です」―。
昨年十一月、五回目の活動を誓った高校生一万人署名活動実行委の集会。集まった約三十人の中学、高校生たちは、意を決して過去最多の署名数を目標に掲げた。
これまで「数」ではなく、核廃絶を求める趣旨を一人一人に時間をかけて説明する「質」にこだわるのが実行委のスタイルだった。
「被爆六十年の六にちなんだ」「質を大切にしながら、数にもこだわりたい」。初めて掲げた目標には、四年間積み重ねてきた活動への自信がうかがえた。
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「おまえたちに何が分かる。高校生がやったって何も変わらない」
初期のメンバーの中にずっと引っ掛かっている言葉がある。街頭署名の最中、被爆者らしき年配の男性が吐き捨てたその一言。返す言葉がなかった。
だが、今は違う。
「頑張ってね」「暑かけん、ジュースば買わんね」「いつもテレビで見とるよ」
街頭に立つと、励ましの言葉がはるかに多い。大きな目標を裏付ける周囲の期待と温かな目を確かに感じる。
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「自分たちで決めたことだから、相当の覚悟でやってください」。集会の最後、小学校教諭で支援者の平野伸人さん(58)は、あえて厳しい言葉を投げ掛けた。初顔合わせの和んだ空気が一瞬凍った。普段は静かに見守っている平野さんが語気を強めたのには理由があった。「高すぎる目標は自分たちの首を絞めるだけだ」
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寒い時期に入ると、懸念は的中した。
メンバーたちは毎週末、長崎市内の繁華街で署名を呼び掛けた。寒さに身を震わせ、凍える手でペンを差し出した。だが、二時間立っても数十人分しか集まらない日も。身の震えが、六万人を目標に立てた心の震えに変わる。
ある日、メンバーの一人がつぶやいた。「のどから手が出るほど(署名が)欲しい」。はるか遠くの目標への道は始まったばかりだった。