作曲家(長崎市出身) 大島ミチルさん 夢や希望持てる時代に
―長崎原爆で家族が被爆したと聞く。
当時、原爆で叔父が亡くなり、母はけがを負った。母は今も元気だが、幼いころから母たちに原爆の恐ろしさを聞かされて育った。子ども心に言葉から鮮明にイメージした。原爆のものすごい光、火の海、川に飛び込む人々、崩れた家の下敷きになった人…。追体験したようにイメージが焼き付いている。
―フランスの「ラベル弦楽四重奏団」の演奏によるクラシックCD「For the East(フォー・ジ・イースト)」を六月に発売した。「原爆」や「祖国」など平和への祈りが大きなテーマとなっている。
作曲した「原爆」は母から聞いたイメージそのもの。自分が感じたことを率直に表現した。音楽は言葉のストレートさと違って、戦争を表現したとしても温かく包み込むように語れるからいいな、と思う。言葉の壁を越えるのはなかなか難しい。音楽に壁がないとは言い切れないが、少なくとも演奏しているとき壁は全くない。フランスなどヨーロッパでも発売されたが、向こうの音楽関係者がすごく共感してくれる。
―被爆五十年の記念歌として作曲した「千羽鶴」は、平和祈念式典で毎年合唱されるほか、毎月九日の原爆投下時刻に長崎市の防災行政無線で放送されるなど、市民の間で定着している。
母校の純心女子高の後輩をはじめ市民の間で歌い継がれているそうで、作曲家としては一番うれしい。歌詞は折り鶴の色に一つ一つ思いが込めてあって色彩とイメージが豊か。詞を見て、未来に向かった温かい音楽にしたいと思った。「千羽鶴」をきっかけに、作曲家として平和にかかわるようになった。「原爆」は自分の一生のテーマと思っている。
―被爆六十年を機にあらためて平和へのメッセージを。
原爆であれだけの惨禍があったのに、なぜ今の時代に戦争があるのか、本当に不思議に思う。世界各地でテロが続くが、争いからは憎しみしか生まれない。
九日に浦上天主堂で開く平和巡礼コンサートでは新しくアレンジした「千羽鶴」をオーケストラで披露する。市民の「千羽鶴」合唱では指揮を執らせてもらう。
これからの子どもたちが、未来に向かって夢や希望が持てるような時代になってほしい。そんな願いを込めて「千羽鶴」を演奏したい。
平和への誓い新たに 緋の色の鶴を折る
清らかな心のままに 白い鶴折りたたみ
わきあがる熱き思いを赤色の鶴に折る
(中略)
未来への希望と夢を
虹色の鶴に折る
(作詞・横山鼎、作曲・大島ミチル「千羽鶴」から)大島ミチルさん作曲「千羽鶴」の楽譜