協力の輪 熱意に支えられて拡大
四月初め、被爆体験記の最初の英訳作業を終えた佐世保市立福石中の英語クラブは、英訳プロジェクトに引き続き参加する意向を長崎新聞社に伝えてきた。「次の体験記をお願いします」。生徒たちの声が弾んだ。
やり遂げる自信
春までの中心メンバーだった三年生は卒業。顔ぶれは変わり、新三年生と新二年生の五人で週二回、放課後に取り組む。
担当しているのは佐世保市の大隈直之さんの体験記。現在、全体の三分の一程度の作業が終わったが、日本語に合う英単語を一つ見つけるのに、一日の活動を全部費やすときもしばしばという。
「普段の授業では体験できない貴重な時間。出来は別として、自分たちでやり遂げることの自信が、英語への関心につながったらいい」。顧問の小宮昭子教諭はそっと見守る。
六月になって、長崎、諫早両市、西彼の公私立の五つの高校が仲間入りした。
県立長崎北陽台高(西彼長与町高田郷)。大学受験を控えた英語部の三年生が長崎市の恒成正敏さんの体験記を受け持つ。担当教諭は「英文科など英語専門の学科を目指す生徒が多い。英作文が多い二次試験対策と平和学習も兼ねて頑張れそうです」と話す。
私立青雲高(西彼時津町左底郷)では七月初め、二年生の全五クラス(二百三十人)に参加を募り、男女二十一人が手を挙げた。
間もなく7ヵ月
西貴司君(16)は北九州市小倉南区出身。「原爆投下の第一目標は小倉だった。自分が住んでいた小倉の代わりに、大勢の長崎の市民が犠牲になってしまった。世界へ被爆体験を伝える一人になりたい」。参加を決めた動機をこう語る。
この連載の第一回が掲載された十六日、長崎新聞社に電子メールが届いた。「英訳プロジェクトに参加した経験がある福石中卒の生徒が高校でも取り組みたいと提案してくれた。詳しい資料を送ってほしい」。佐世保市の私立高の教諭からだった。
「中学生や高校生には荷が重いかもしれない」「学校側の協力が得られるだろうか」―。半信半疑のスタートから間もなく七カ月。「被爆体験を世界へ届けたい」という被爆者や生徒たちの熱意に支えられ、英訳プロジェクトの輪は少しずつ、そして確実に広がっている。