う ね り 核廃絶、平和願い熱気
ニューヨークで開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせ、被爆地長崎から被爆者や市民約四十人が渡米した。「あの日」から今年で六十年。核兵器廃絶を願うナガサキの声は、核の超大国にどう届いたか。現地での表情を報告する。
「欲しいものは?」
「ピース!」
「欲しいものは?」
「ラブ!」
リズミカルな英語のシュプレヒコールが続く。NPT再検討会議の開幕を翌日に控えた五月一日。四万人の反核・反戦ラリーが日曜日の大通りをぎっしりと埋めた。朝方、どんよりと曇っていたニューヨークの空は、ラリーの開始にタイミングを合わせたように、からりと晴れ上がった。
「戦争をやめろ」「軍隊を帰せ」―。イラク戦争反対のプラカードが並ぶ。大統領の仮面をかぶったパフォーマーは、父親に糸で操られながら左手に握ったオイルの缶をユーモラスな動きで口に運び、右手で「地球」をもてあそんでいる。背中の張り紙は、大ヒットミュージカル「ライオン・キング」をもじった「THE LYING KING」(うそつきの王様)―。
「そりゃ彼は大統領だからね、尊敬はしてるよ。だけどね…大統領としては、良かったり、悪かったりかな」。ブッシュ大統領の出身地、テキサス州の半導体技術者、ゲリー・ピックニズさん(51)が言う。休暇を利用して、国際NGO「平和市長会議」のボランティアスタッフに加わった。
「日本人かい?」―。退役軍人のグループの一人が話し掛けてきた。「サセボに三年間、勤務したことがあるんだ」。ビル・スチュアートさん(62)。ベトナム戦争を経験した。
「ナガサキにも行ったよ。溶けたガラス瓶も、血まみれのけが人の写真も見た。黒焦げの死体もね」。三十年以上も前に触れた被爆の実相が今なお、記憶を鮮明に刻んでいる。「核兵器なんか、絶対にいらない。戦争もいらない」
NPT再検討会議は議題すら決まらないまま、幕を開けようとしていた。会議の行方には悲観的な観測が相次いでいた。だが、ニューヨークのラリーには、核兵器の廃絶と世界平和を願う熱気が渦巻いていた。
「すごく明るくて、楽しくて。びっくりしますね」
県生活協同組合連合会の派遣団のメンバーとして現地入りした県立大三年の山崎美紗子さん(20)=佐世保市椎木町=は、被爆者らの荷物を載せた車いすを押しながら参加した。「当たり前だけど、米国の人もしっかり平和を願っているんだ、と実感できることがうれしい」。声が弾んだ。