両角良彦さん 現状に沿い条文改正を
十四年前の出来事が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
湾岸戦争停戦直後の一九九一年四月。機雷除去のため、佐世保などから海上自衛隊の掃海艇など六隻がペルシャ湾へ向かった。その中の一隻、補給艦「ときわ」の艦長として乗艦。訓練や南極観測などを除き、自衛隊の本格的な海外派遣は発足以来、初めてだった。
現地で任務に就いて一カ月がたったある夜、「ドーン」という振動とともに艦内に緊張が走った。見ると、約三キロの目前で米海軍掃海母艦と、イラク船とおぼしき国籍不明の小型ミサイル艇二隻が砲撃戦を展開。ミサイル艇一隻が撃沈され、一隻は逃走した。「次は自分たちが狙われるかもしれない」。二十四時間態勢で厳重警戒し、緊迫の日々を送った。交戦の覚悟も決めた。
現憲法には「自衛隊」や「自衛隊による国際貢献」の文言はない。掃海任務の根拠になったのは自衛隊法九九条(機雷等の除去)だった。護憲派は「十分な論議もないまま、法の拡大解釈で派遣が見切り発車された」と猛反発した。
あれから十四年。九条改正の思いは増すばかりだ。「日本は主権国家。戦後六十年がたち、現状にそぐわなくなった憲法は英断を持って改めるべきだ。腫れ物にでも触るかのように、『自衛隊』の文言に手を出さない日本の姿勢が近隣諸国の干渉を招いている」と主張する。
現在、実施されているインド洋への派遣についても「自衛隊による国際貢献が憲法に位置付けされないまま、イラク特措法など時限立法を根拠に出て行っている。そのやり方に戸惑いを感じる。これでは、現場で命を懸けている隊員の士気にもかかわる」と言う。
持論は「集団的自衛権」の明文化にも及ぶ。集団的自衛権はこれまで「国際法上は保有しているが憲法上、行使できない」と解釈されてきた。だが「安全保障上の相応の負担と義務を果たして初めて、同盟国の米国から信頼され、日米安保条約も効力を発揮する。米国への脅威に日米が共同で対処できないという理屈は通用しない」。
「北朝鮮による拉致や核開発問題などで、憲法を真剣に考える国民が増えている」。今、改憲論議を注視している。
▽もろずみ よしひこ 佐世保市出身。長崎大卒業後、海自幹部候補生学校に入校し、護衛艦「いすず」「はつゆき」「くらま」の艦長などを歴任。湾岸戦争後、補給艦「ときわ」の艦長として半年間、ペルシャ湾での掃海任務に就いた。元海自一佐。65歳。