今、9条を語る
 =憲法論議の中で= 1

「日本を戦争ができる国にしてはならない」と語る高見大司教=長崎市橋口町、カトリック長崎大司教館

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今、9条を語る =憲法論議の中で= 1 高見三明さん 飾りではなく現実的に

2005/04/27 掲載

今、9条を語る
 =憲法論議の中で= 1

「日本を戦争ができる国にしてはならない」と語る高見大司教=長崎市橋口町、カトリック長崎大司教館

高見三明さん 飾りではなく現実的に

衆参両院の憲法調査会が四月、それぞれ最終報告書をまとめ、憲法改正をめぐる論議が加速してきた。戦争放棄をうたい、半世紀以上にわたり日本人の精神を支え続けた平和憲法。その理念を守るべきとする護憲の主張とともに、激動する国際社会に対応するための改憲の声も強まる。被爆地長崎は、平和の礎を築いた「九条」にどう向き合っているのか。県内の有識者、市民が今、憲法を語る。

「戦争を起こさないため、九条を守らなければならない」

”改憲”が現実味を増す現状を見据え、言葉に力がこもる。カトリック長崎教区の大司教。根底にあるのは「一宗教者として平和のために尽くしたい」との信念だ。

「暴力を問題解決に用いない、武器を持たないという精神は、カトリックの教えに非常に近い」。戦争放棄、戦力不保持を掲げる憲法第九条を、こう評する。二〇〇四年の「長崎県九条の会」の発足で、呼び掛け人に名を連ねた。以来、積極的に憲法を語る。

きっかけとなったのは、海外派遣が常態化しつつある近年の自衛隊の変化だ。「海外に行けば自衛隊ではなく『軍隊』。なのに、国民の大きな反対もなくここまできてしまった」。疑問を感じながら、九条の意味をあらためてかみしめる。「平和を望むのであれば、九条を飾りでなく、現実的なものにしなければならない」

「自衛隊の海外派遣はすべきでない。国際貢献は別の形で」と訴え、政府に大きな影響を与えている最近の米国の姿にも厳しい視線を注ぐ。「武力解決を何とも思っていない。日本は九条を生かし、米をはじめ世界に平和をアピールすべきだ」と主張する。

今、改憲に向けた世論の大きな流れを肌で感じる。「知人からも『抑止力としての軍備は当たり前』との考えを聞く。だが武器は人を殺す道具。持ってはいけない。『九条を守ろう』と声に出すだけでなく、なぜ守るのか、どうして必要かを議論すべきだ」

生まれる約七カ月前に胎内被爆。九条にこだわる思いの底に、核兵器廃絶への願いがある。「母の家族や親族がたくさん亡くなった。被爆国、そして加害者でもある歴史を決して忘れてはいけない」。長崎、そして日本のたどった道を振り返り、護憲への思いを新たにする。

▽たかみ みつあき 長崎市出身。生後すぐに洗礼を受け、慶応大通信教育部文学部、福岡サン・スルピス大神学院を経て1972年司祭に。ローマ教皇庁立聖書研究所などで聖書学を研究した。2003年からカトリック長崎教区大司教。59歳。